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初めてのドラキュラ
僕は山田 ノビル。中学2年生だがしばらく学校には行っていない。
僕は学校でいじめられている。
まぁ仕方ないとは思っている。僕はチビで勉強もダメ、運動もダメ、そのくせ親が大企業の社長だったからお金だけは持っている。からかわれてもいじめられても仕方のない存在だからだ。
でもそんな日常にも疲れてきて、僕は学校に行かなくなった。つまりは引きこもりという奴になったのだ。
しかし今日はどうしても欲しいゲームの発売日で、久しぶりに外に出てしまったのだ。
そうしたら案の定、いつも学校で僕をいじめていた不良グループの奴等に見つかってしまい、絡まれてしまったわけなのだが…
「おいノビル君よ~。何で学校来ねぇんだよ。おまえのせいで金欠で困ってんだよ」
金欠は僕のせいでもなんでもないし、それにおまえ達みたいな奴等のせいで学校に行けなくて困ってんだよ。
「なぁ、金もってんだろ?オヤジさんの遺産!少し俺達にも恵んでくれよ」
僕の父親はすでに死んでいて莫大な財産が残っていた。頭の足りなそうなこんな奴らでもそれくらいは分かっていたのだろう。
「今日はたいして持ってきていないんだ。また今度で勘弁してくれないかい?」
「つれないこと言うなよ~なっ!」
いつも通りならこの後殴られて、金を盗られるという筋書きだったが今日は違っていた。
「弱い者いじめをしているということは、自分が強い者だと言いたいのだろうが、君たちは本当に強い者で間違いないか?」
身長2メートルは軽く越えていそうな大男が、すぐそばにいつの間にか立っていた。
男は銀髪で色黒の外国人?なのか目鼻立ちのはっきりとしたイケメンで、黒のスーツを着ていた。
男はさらに語りかける。
「お金をもらうということは、その金額に見合う働きをしたということで間違いはないか?」
「おまえさっきからなに言ってんだよ!気持ち悪ぃな!」
「君たちは私に対してくそ生意気な態度で暴言をはくと言うことは、私より強い者で間違いないのだな?」
「何だてめぇは」と不良Aが大男の襟をつかんだ。
「では君たちより弱い私が攻撃しても防げるはずなので、全く問題ないな?」
男はそう言うとつかまれた不良Aの手を振り払い、右手の人差し指で不良達を指差した。そして男が「飛べ」と言った次の瞬間、衝撃波のようなものが巻き起こり、不良たちは空の彼方へ飛んでいったのだ。
その光景を見た僕は一瞬何が起きたのか分からなくなったが、ふと我に返り目の前の男がヤバい奴だということはすぐに理解できた。何とかその場から逃げようと思ったが、先ほどの衝撃で腰が抜けてしまって動けない。
ヤバい、早く逃げないと!
「大丈夫かね?」
「えっ?」
「大丈夫なのかと聞いているのだ」
男が話し掛けられようやく少し状況がつかめてきた。
そうだ、僕は助けられたのだ。
ただヤバい奴に絡まれた所をヤバい奴に救われただけのこと。
「大変だ!」
え?何が?
「うまそうな血がこんなに出てしまってる。なんともったいない」
え?うまそうな血?やっぱりこいつはヤバい奴だ! でも助けてくれたし、うわぁ~もぉ何なんだ!
「そんなことよりも君、ちょっと道を尋ねたいのだが問題ないか?」
問題はないが、問題がある!
「は、はい問題ないですけど?」
「山田ノビルという中学生のいるお宅を探しているのだが、心当たりはないか?」
なぜ僕の名を!それまさに僕ん家!
「あの~知っていますが、その家に何の用ですか?」
「なぜ君に教えないといけないのだ?出会ったばかりの見ず知らずの人間に質問してくるなどと、言語道断であるぞ」
最初に質問してきたのはあなたですけどね!
おかしな奴とは思ったが助けてもらったし、僕は正直に答えることにした。
「いや、あの山田ノビルって僕のことですけど」
「な、なんとそうであったか!そうとは知らず大変申し訳ない」
男はそう言うと手を自分の頭の上に乗せ、綺麗な銀髪をクシャクシャとさせ、恥ずかしそうにしている。
よかった、いろいろクセは強いが悪い人ではなさそうだ。
「で、うちには何の用なんですか?」
僕が再度聞くと、男は胸ポケットから名刺を出してきた。そこには
『引きこもりから、いじめられっ子までどんな人でもお任せください。
家庭教師 ドラキュラ 一世 』
と書いてある。
「私の名はドラキュラ 一世。その名の通りドラキュラつまり、バンパイアの一族です」
何を言い出すかと思えば、さっきの言葉は訂正しよう。この男はクセが強いどころか、頭がイっちゃってるヤバい奴だ!
「どうしたのかね?震えてるようだが、ドラキュラを見るのは初めてかな?」
初めてに決まってるだろ!とは言えず、何をされるか分からない状況なので、とりあえずこの場をやり過ごすしかない。
「あ、あのそのドラキュラさんがうちに何をしに来られるんですか?」
「何を言っているのだ、先ほど名刺を渡したであろうが。今日から君の家庭教師となり、住み込みでいろいろと教えてやろうと言うのに」
「え?家庭教師?僕の?しかも今住み込みって言いました?」
「もちろんだ。いつもそうしている、私には家がないからな。もちろん母上殿にも了承頂いている、息子をお願いしますと」
母上殿にもって…僕が引き込もってどうしようもないからって、こんな怪しい奴にお願いするなんて!
絶対こんな奴に家庭教師なんてやってもらってたまるか!とにかく逃げるしかない。僕はとっさに「に、にんにくがあんなところに!」と叫ぶと、ドラキュラの目線が外れたのを確認して、一目散に駆け出した。
僕は家まで振り返らず全力で走った。
とにかく走った。
そして家につく頃には足が疲労でガクガクになっていた。そう言えば引き込もってからは全く走っておらず、案外走るのも気持ちいいものだと少し感じていた。
何とか気付かれずに家に着けたと安心した次の瞬間だった。
「案外走るのも悪くはないだろう?」
僕は目を疑った。振り返ると目の前に先ほどのドラキュラを名乗る大男が、息1つ切らさず平然と立っていたのだから。
「ここが君の住みかのマンションかね。ずいぶん大きいけど何階なのだろう?」
やっぱりこいつは何かヤバい。言うことを聞いていた方が良さそうだ。言いなりになるのは慣れてるしね。
「ここは25階建てのタワーマンションで、僕の家は25階です」
「ほほう。なるほど、ちょうどいい」
「えっ?何がですか」
「さっきのジョギングついでに、走って25階まで行くとしましょう」
は?何を言い出すかと思えば…冗談だろ!
「何をしている、さっさといくぞ」
そう言うと大男はエレベーターではなく非常階段の方を登りだした。
「ちょっ、…マジかよ」
この先どうなるのかと不安しかなかったが、得たいの知れない彼に従うしかないと思った僕は、仕方なく階段を登り始め彼をとぼとぼと後から追ったのだった。
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