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「わぁぁぁぁぁぁぁーーー!」
今僕は落ちている。
一通り走馬灯も終了して、さぁいよいよこの世ともおさらばか。
しかし何だか落ちているような感じがしない。死ぬ前ってこんな感じなんだ。
さようなら母さん。それだけが心残りだ。母さんには親孝行の1つでも…て、なかなか地面に着かない…あれ?
目をつむっていて分からなかったが、下を見ると地面とはかなり距離がある。僕は落ちていない。宙に浮いている!?
なぜ浮いているかと言えば、あの男が僕を抱えて飛んでいるからだ。信じがたいが黒い大きな翼を広げて、バサバサと飛んでいる。満月に照らされてそのシルエットはまるでコウモリのようで、まさにその様はドラキュラそのものだった。
悔しいけれど認めざるを得ないのか。
今まで現実から目を背けて来たけれど、こんな非現実的なことが起きたら余計に逃げたくなってしまう。
「どうですか?本当だったでしょう?」
「いやこんなのおかしい。信じたくないよ!こんなのが現実なんて」
「仕方ないですね、ではこうしましょう」
そう言った次の瞬間、ドラキュラは僕を抱えている腕を下ろしたのだ。
もちろん僕は地上へまっ逆さまに…
「えぇぇーーーーー!」
今度は本当に落ちている。
でもきっと助けてくれる。ドラキュラが助けてくれる。きっと…
ドスンッ!
鈍い音とともに僕は地面に叩きつけられた。
今度こそ死ぬ。
思えば何もしてこなかったな…
女の子と付き合ったことも無かったし、キスくらいはしてみたかったな…
意識が薄れる中、誰かが近づいてくるのが分かった。その人はそっと僕を抱き寄せ唇を重ねた…誰だか知らないが、最後の望みを叶えてくれてありがと…
ガブッ
「痛っ!」
急に意識がはっきりしてきて、目の前にいるのが大男ドラキュラだということが分かった。
つまりは先ほどのキスのお相手は!
「おまえか!」
心なしか頬が赤らんでいるドラキュラ。
「ファーストキスだったんだからね!ありがたく思いたまえ!」
ツンデレっぽく言ったドラキュラに思わず突っ込んだ。
「おまえいくつだよ!」
「私はだいたい400歳くらいだったかな。そんなことはもう覚えていない」
400年もキスもしたこと無かったなんて、ちょっとかわいそうだなと思わざるを得ない。
いやそんなことよりも、何で僕は生きているんだ?それどころか元気いっぱいぴんぴんしている。
「これで信じてくれたかい?君は今私が血を分け与えたことによって甦ったのだよ。大いに感謝してくれたまえ」
「待って下さい。本当にあなたの血で僕は復活したんですか?それにそもそも落としたのはあなただから感謝するのはおかしいし、それにそもそも口はおかしいでしょ?普通ドラキュラなら首筋と決まってるでしょ?」
「そもそもそもそもうるさい子ですね。別に普通である必要はないだろう?なんとなく勢いで口に行っちゃったのだよ」
勢いって!じゃあ口じゃなくてよかったのかよ!
「まだ信じてくれないのかね?ホント最近の子は困ったものだね。じゃあもう一回する?」
「もぉいいよ!」
「まぁ立ち話も何だから。家の中でお茶でもしながらこれからのことについてお話しましょうか」
「いや僕んちだから!!」
「これから住み込むわけだし、ね?」
「まだ認めてないし!」
「何かキャラ変わってない?」
「お互様!」
「 …!」
そんなやり取りをしているうちに、思い出したかのように僕の瞳には急激に涙があふれ出てきた。
そして終いにはなぜか笑いが込み上げる。
「生きててよかった…」
生きているということは、こんなにも痛くて悲しくて嬉しくて、そして笑える。
「あ、ちなみに君は僕の血を分けたから、もう人間じゃないと思うよ。たぶんだけど」
「えっ?えぇぇーーーーー!」
…そんなこんなで。
半ば無理やり家庭教師として住み込むこととなったドラキュラ。
今後一体何が起きることやら…
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