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「ちょっと! いい加減にしなさいよ!」
あたしは彼氏が駆け込んだ隣の部屋に入った。そこにあったのは信じられない光景だった。なんと、彼氏が一心不乱に鮭の切り身を食べているのである。それも、四つん這いのスフィンクス座りのまま、鮭を手に持つことはなく床に置いたまま口だけで鮭の身を口の中に入れているのだった。
あたしが呆然としている間に彼氏は鮭の切り身を完食。それから彼氏の定位置であるソファへと向かい、そのまま丸まって眠りに就いた。
ついに食事の時まで猫になりきってしまった。あたしは早く彼氏の舞台である『猫の集会所』が終わらないかなと願うのであった。
演劇とはこんなに役作りが本格的なものだろうか。特に今回は彼氏の人生を左右する舞台だと言う、あたしは大目に見ることにした。この程度の異常行動を容認するだけでヒモでなくなるなら安いぐらいだ。
あたしは四散した皿の処理を終え、朝食を済ませ会社に行くことにした。
「じゃ、行ってくるからね。お昼はテーブルの上に千円置いとくね」
「にゃあ」
いつまで続けるつもりだろうか。今回は前にふざけてやった猫ごっこより本格的だ。せめて「行ってきます」ぐらいは言ってくれればいいのに……
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