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入学式の準備
それから数日後の夕食時。
「ねぇ、彼方。あなた、大学の入学式のスーツはまだ用意していないでしょう? 明日一緒に買いに行きましょうか」
ずっと前からスーツは長く着れるものだから奮発してあげよう、ネクタイは何色がいいかしらとわくわくしながら考えていた。だけどこのところ毎日のように友だちと会うと言っては出かけていたから、なかなか買いに行く暇がなかった。友だちはみんな、大学で家を出てしまうから、今くらいしかこうして会えないと言っていたし、それなら仕方がないと見送っていたけれど、そろそろ自分のこともしなくちゃ。友だちを優先する優しい子だと嬉しく思う反面、そればかりになるのも駄目ね、と苦笑する。
やっぱりわたしがついていてあげなくちゃ、自分のことは二の次にするんだから。
そんなわたしの心配を知ってか知らずか、彼方は素直に頷いた。
「あぁ、そうだね。ありがとう、母さん」
のんびりとした答えにわたしは喜んでスーツ姿の彼方を想像する。
高校の制服は紺色のブレザーだったし、スーツも紺色がいいかしら。細身の彼方にはよく似合っていたものね。だけど長く使うならもう少し濃い色もいいのかな。あぁ、そうしたらネクタイは何色がいい?
明日、一番似合うのをわたしが見繕ってあげるから。安心していていいからね、彼方。
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