お礼

1/1
前へ
/13ページ
次へ

お礼

 その日の晩、夕食を終えて、夫に彼方のスーツの話をしていた。   「母さん、これ」    お風呂から上がった彼方が、白い封筒を渡してくる。   「なぁに?」    何も書いていない封筒に、尋ねても何も答えない彼方を見てから開けてみると、中からは電車の切符と温泉の招待券が出てきた。驚いて彼方の方を見ると、ふわりと笑っている。   「今日のお礼。たくさん歩いて疲れたよね? ゆっくりしてきてよ」 「彼方……」    驚いたのと嬉しいのとで何も言えなかった。本当に、何て優しい子に育ったのだろう。わたしは何度もお礼を言って封筒を受け取った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加