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温泉
翌日、わたしは彼方と夫に見送られて家を出た。電車に揺られながら、こんな風にひとりで出かけるなんていつぶりだろうと思う。彼方がまだ小さいころは家族で旅行したりもしたけれど中学生になったころからそんなこともなくなっていった。少し寂しく思いながらもお土産は何にしようと胸を踊らせ、ひとりの開放感に酔いしれる。
それから二日間、わたしは彼方が産まれてから初めてかと思うほどにのんびりと過ごした。ゆっくり温泉に浸かって豪華な夕食を楽しみ、翌日は観光して回る。
たまにはこうしてゆっくりするのもいいわねと思いながらも、やっぱり気になるのは家のこと。出前でもとるから大丈夫と言っていたけれど、何を食べているのかしら。サラダも食べなきゃ栄養が偏ってしまうけれど、男ふたりならそんなこと気が付かないでしょうね。帰ったらお礼に夕食は彼方の好きなビーフシチューにしてあげよう。野菜を多めにしなくちゃ。
そんなことを考えていると、早く帰りたいと思えてくるから不思議。温泉も観光もとても楽しいのに、やっぱり彼方や夫と一緒が良かった。彼方と離れるなんて修学旅行や林間学校なんかの行事で彼方が出ているときだけで、わたしの方が出かけるのは初めてだった。
こうして少し寂しいながらも充分に温泉を満喫したわたしは、たくさんのお土産を抱えて家に帰ってきた。
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