卒業の日

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卒業の日

「彼方、卒業おめでとう」    冬の寒さも通り過ぎた三月半ば。この日、息子は高校を卒業した。   「ありがとう、母さん」    わたしが作ったケーキの向こうで、彼方が笑顔で答えた。夕食の後だというのに、美味しそうにケーキを食べている。何かと忙しい一日だったけれど、やっぱり作ってあげて良かった。それに、彼方も卒業式が終わって友だちとご飯に行くと言っていたのを、夕食までには帰るようにと言って良かった。だって、今日はとても大事な日だもの。家族でお祝いしなくちゃ。それに他の子たちは大学で家を出る子がほとんどだって言っていたでしょう? 残り少ない家族の時間は大切にしてあげなくちゃ。彼方は大学も家から通うのだから別だけど。でも高校の卒業式が大切な日ってことには変わりない。この三年間、毎日お弁当を作って朝は遅刻しないように起こしてあげて。テスト前には勉強を頑張る彼方に夜食を作ってあげた。本当に、二人三脚でここまで来たのだから。   「彼方も大学生か。早いものだなぁ」    隣で夫がしみじみと言いわたしもしんみりと頷く。    大学生。世間一般にはほとんど大人。実際、半数が成人なのだから。  だけど、と思う。ついさっきまでは高校生だった子だもの。まだまだ手放しで大人というには早いわよね。まだまだ、わたしがついていてあげなくちゃ。ね、彼方。  
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