飼い猫たちの本音会

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飼い猫たちの本音会

 とある住宅街の片隅、ぽっかりあいた四角い空き地。  そこへ夜な夜な集まり、話し合いをしているのは……。 「トラさん、あれから飼い主さんとの関係はどうなったのかニャ?」 「ミケさん、良いこと聞いてくれたにゃーん。うちの飼い主さん、相変わらず普段は穏やかでとても優しいのに、お酒を飲むと口が悪くなって罵りまくられてるんだにゃーん。ミケさんは相変わらず仲良くやってるのかにゃーん?」 「おかげさまで、毎日ラブラブだニャ!」  ミケが迷わず答えると、 「羨ましいにゃーん」  と、トラが羨望の眼差しを送り、   「羨ましいニャン」  と、クロがしみじみ囁き、   「羨ましいにゃっ」  と、シロが大きく頷いた。 「いやいやシロさんとこもラブラブでしょニャ? なんてたって、飼われたてホヤホヤニャんだから!」 「それがそうでも無いんだにゃっ。ちょっとしたことでケンカしちゃうし、昨日なんて別々の部屋で寝ることになっちゃったんだにゃっ」 「えっ? そもそも毎日一緒に寝てるのかニャン?」  驚くクロ。 「もちろんにゃっ。クロさんとこは違うのかにゃっ?」 「当たり前ニャン。飼い主さんのイビキも凄いし寝相も悪いから一緒に寝られるわけが無いニャン」 「なるほど、だからちょいちょい他の飼い主さんとこに行ってイチャイチャしてるのかにゃーん」  ニヤリとしながらツッコミを入れるトラ。 「ギクッ! トラさん、その件は内密にとお願いしたはずにゃっ」  焦るクロ。 「おっと、これは失礼したにゃーん。でも、ちょっと羨ましくもあるにゃーん。私もたまには他の飼い主と──」 「トラさん、いくら飼い主さんの酒癖が悪いからって、軽はずみにそんなこと言うもんじゃ無いニャ」 「ハハハ、ミケさん冗談ですにゃーん。飼い主さんが働いてくれてるおかげで食べていけてるのに、他の飼い主さんとこに行くなんてクロさんみたいな卑劣なことをするつもりは全く無いから大丈夫だにゃーん!」 「おいおい、そこまで言う……いや、残念ながら反論の余地が無かったニャン」  冗談めかすクロを含めた全員が「ニャッニャッニャッ」と笑い声を上げた。 「そう言えば、シロさんとこは子猫の予定まだなのかニャ?」 「もちろん欲しいですけど、今のところまだですにゃっ」 「ほほう、毎日一緒に寝てるのにニャン?」  ニヤニヤしながら聞くクロ。 「ちゃんと計画してるんですにゃっ! クロさんこそ、他の飼い主さんとこで……なんてことになったらシャレにならないですにゃっ」 「フッフッフ、そうなったらそうなったでちゃんと面倒見るつもりだから安心するニャン!」  ドヤ顔で言い放つクロ。  ドン引きするシロとミケとトラ。 「まあでも、クロさんなら本気でやりくり出来そうなのが恐ろしいところにゃーん。確か手取り100万だったかにゃーん?」 「いや、150万だニャン! 仕事もプライベートも絶好調だニャン!」  クロは満面のドヤ顔で腰をカクカク動かした。 「羨ましすぎるニャ。うちなんて飼い主と子猫を食べさせて行くのがやっとだニャ」 「でもミケさんとこは毎日ラブラブだにゃーん? 高給取りでも飼い主と冷え切って他の飼い主のとこに行くクロさんと、慎ましい生活でも家族仲良く幸せなミケさん……結局、幸せってお金で決まるわけじゃないんだにゃーん……」  トラは、軽くため息をつきながら夜空を見上げた。 「そうだニャ……ってトラさん、まだ新しい職場見つからないのかニャ?」 「必死で探してるんだけど、色々厳しくて……にゃーん」 「あっ、そうそう、トラさんって技術屋さんですにゃっ? うちの会社、来年に向けて新規事業開拓のために技術系の募集を大々的に行うみたいなんで、もし良かったら……」 「おお! シロさん、ぜひ詳しい話を聞かせて下さいな!」 「ちょ、ちょっとトラさん!」 「おっと……聞かせて下さいにゃーん!」 「はい……って、そろそろ帰らないと飼い主さんが心配しちゃうんでまた次回で良いですかにゃっ」 「もちろんにゃーん。それじゃ皆さん、また次回にゃーん」 「お疲れさまニャ」 「お疲れニャン」 「ではまたにゃっ」  空き地の端っこ、薄く雑草の生える地面に座って喋っていた4人がスッと立ち上がった。  新婚ホヤホヤのシロこと白石。  失業中のトラこと虎田。  毎日ラブラブなミケこと三池。  高給取りで浮気癖のあるクロこと黒木。  それぞれの想いを抱きながら、飼い主という名の妻が待つ自宅へと戻っていく。  猫になりきることで、少し話しづらい話題でも自然と話すことができ、シラフなので無駄に暴走することもない。  不定期に開催されるこの〈猫会議〉は、酒やタバコなどとはひと味違ったストレス解消方法として、4人の大きな楽しみとなっていた……。  〈了〉
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