卒業

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卒業

 講堂での卒業式が終わった。  卒業生たちは校庭に出て、三々五々、めいめい語り合う。  おれは級友に言った。 「大学行っても、友達だからな。水野はK大だよな」 「ああ。離ればなれになるが、いつでも遊ぼうぜ」 「おうよ」  女子の大半が泣いていた。恩師の周りに集い、泣きじゃくっている。  桜が舞う。卒業生たちを祝福するかのように。  おれもうるっときた。だが泣かない。男、そんなことで簡単に泣くもんじゃない。  おれはつとめて元気なふりをして、仲間に語りかける。 「三年間、あっという間だったな。覚えているか? 入学式の日、春一番が吹いたことを」  友は口々に言う。 「ああ」 「そう。強い風の日だった」 「女子のスカートがめくれてな」  あはは、あははと笑う。でも、みんな泣き笑いだ。  卒業証書の入った筒で田島がおれをぽんと叩きながら言う。 「おまえとは殴り合いしたこともあったな」 「あったあった。早乙女のことでな」 「ま、結局二人ともフラれちまったがな」  と、離れたところに早乙女の姿。  おれと田島はやけくそで叫ぶ。 「早乙女、好きだったよおお」 「生まれ変わったら結婚してくれえ」  早乙女はほほ笑んだ。そして手を振ってくれた。  おれと田島は万歳三唱した。  坂崎が言った。 「じゃ、そろそろ行くか。門出だ」 「さよならだな、この学校とも」 「いい三年間だった。おれの青春が詰まっていた」  おれはたまらず落涙する。 「みんな。元気で。元気で。頑張れ。頑張れ。ばらばらになるけど、おれのこと忘れないでくれよ」 「当たり前だ」 「おまえとはいつだって親友だ」 「おまえこそ頑張ってな」  みなは校門に向かって歩いた。  その後ろ姿を、舞い散る桜吹雪が彩った。 「ーーさてと」  おれは校舎へと独り向かう。そしてつぶやいた。 「ああ嫌だなあ。四月から、年下にため口きかれんのかよ」
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