スピンオフ【糀谷視点】

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「ああー、しんどい、可愛い、触りたい、こねくりまわしたい、押し倒したい」 有田は居酒屋のカウンターに突っ伏す糀谷に呆れている。 「ティーンエイジャーか。爽やかなツラして盛ってんなよ」 「いつまで待てば良いんだろ。何だか最近避けられてるし…辛い…」 「お前ほどの男に好かれて落ちないとはなぁ、小山内さんはなかなか見所あるな」 有田はニヤニヤしながらグラスに口をつけた。 糀谷は顔を有田に向けて睨む。 「小山内さんに興味を持つな」 「どれだけ独占欲強いんだよ、怖いわ。まだ付き合ってもないくせに」 そう、彼女の気持ちが掴めない。 糀谷の振る舞いに少し困惑しながらも嫌がっている様子は見えないから、嫌われてはいないと思う。 時々ふと見せる表情に、自惚れかもしれないが好意を感じられることもある。 だけど、近付けば逃げられる。 糀谷は焦れていた。 激しく恋い焦がれていた。 そんな状態で迎えた取引先の創立記念パーティーの日、糀谷はいつもよりも更に可愛らしく装った小山内さんを前にして舞い上がっていた。 いつも隠れている耳と顎までのライン、そして、小さな膝小僧に興奮した。 タクシーの中で思わず掴んだ手を引き抜かれ少し落ち込んだが、気持ちを奮い起こした。 これしきの事で引く気は毛頭なかった。 もはや、それぐらいで萎える恋心ではなくなっていたのだ。 式典の間も本人に気付かれぬように何度も盗み見てその可愛らしさを噛み締めた。 不埒な想像がエスカレートしそうになるのを自制しつつ、近付く機会をうかがっていたのだが… そんな最中に目にした光景に、糀谷は目の前が昏く塗り潰されるような感情を初めて味わった。 その男に肩を抱かれた女性はどう見ても小山内さんだった。 詰めれない距離に焦がれる糀谷にとって赦しがたい密着だ。 知り合いか?いや、もしかしたら親戚か家族ってことも…込み上げる嫉妬心を誤魔化すように想像を巡らしながら近付くことを躊躇していると、小山内さんの表情が嫌そうに歪んでいることに気付いた。 その瞬間、身体が動いていた。 彼女を男から引き離すと、頭ひとつ分背の低い男を上から見下すように睨み付けた。 (汚い手で触るな。下品な目で見るな。金輪際近付くな。そして、アクセサリー付け過ぎ) 男は糀谷の顔を見て、言い掛けた言葉を飲み込んで視線をそらした。 (勝った!)
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