スピンオフ【糀谷視点】

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それから無意識に『小山内さん』を探す日々が続き、さすがの糀谷も薄々自分の様子がおかしいことに気付き始めた。 こんなことは初めてだった。 企画課と営業一課はそれほど接点が無い上に営業職の糀谷は外出が多い。 階の違う企画課の前を通るためにわざと同じ階の社員食堂を利用するようにしてみたが、彼女には会えないばかりか、ここぞとばかりに他部署の女子社員から纏わり付かれ、いたずらに疲労するばかりだった。 ある日、秘書課の女子社員に密着されながらその話に上の空で返していたところ、前から歩いてきた小柄な女性に気づいた。 (小山内さんだ!) 一瞬にして糀谷の視線が奪われる。 胸がきゅっとなり、思わず胸を押さえた。 彼女は同僚と並んで此方に向かってくる。 掛ける言葉も思い付かぬまま距離が縮まり、すれ違う手前で彼女は目を合わせずに微笑みながら会釈した。ストレートの髪がサラリと揺れて、その顔を隠した。 その直後、背後から聞こえてきた囁き声に糀谷は固まった。 「糀谷さん、相変わらず格好良いね、秘書課の添島さんとハイスペック同士お似合いだね。眼福~」 はあ?君の方が数倍可愛いけど? てゆーか俺は観賞用で対象外ってこと? 糀谷はその瞬間、自らの恋心に気付いた。 それからの行動は早かった。 企画課に彼女がいる同期の有田に相談し、『小山内さん』の友人である里中に探りを入れて貰った。 「彼氏はいないけど、ちょっと手強そうだぞ。だけど、里中さんが乗り気でさ、どうやら協力してくれそうだ」 あの居酒屋での一件は、有田と里中の協力の元、仕組まれたものだった。 『小山内さん』の隣に座って至近距離にその存在を感じた糀谷は意識するあまり、まともに顔を見ることが出来なかった。 そっと窺うと、アルコールで僅かに頬を染めて糀谷を見ている彼女がいた。 あの少し低い声が糀谷だけに向かって話している。 たったそれだけのことにどうしようもなく興奮した。 距離を詰めすぎるなという里中の忠告を早速無視して、次の店へ彼女を誘った。 たった数時間過ごしただけなのに名残惜しく、触れたくて堪らない。 その後も過ごす時間が増える毎に思いは募っていった。
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