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え?ズッキーニスキニー…
ずっと好きだった、って打ったつもりが
ズッキーニ…
予測変換の罠だなこりゃ。
そういえば緊張の余り指が酷く震えていたっけ、読み返してもなかったわ。
ヤバい…。そりゃ、意味わからんわ。
「これのせいで卒業式の前日に、頭痛くなるほど悩んだわ。当日の式は寝不足でぜんっぜん覚えてねぇし」
「へ、へぇぇ」
「へぇ、じゃねえよ。何なんだお前は。人の気も知らねえで」
「ご、ごめん、ごめん。それ間違い」
柿谷は眉を寄せた。
「は?」
「ごめん。見返してなくてさ」
「…じゃあ、何て打ったつもりだったわけ?」
江奈は静止した。いや、ここで真実を言うのは余りに気まずい。
江奈は全身から汗が吹き出す気がした。
「わ、忘れちゃった」
柿谷は江奈を睨んだ。
「それで済むと思ってんの?」
江奈は血の気が引いた。
「一方的に意味のわからねえ文章送って人を惑わしといて、そんでもって連絡を勝手に絶つって…俺ってお前にとって何なわけ?」
江奈は言葉が出ない。
ここは、友達と言うのが正解なのか?
そして謝れば、まだ柿谷とは繋がっていられる?
「ラストオーダーです」
異様な雰囲気の中、遠慮がちに店員が声を掛けてきた。
柿谷は店員に会計を頼み、立ち上がった。
「場所を移すぞ」
その目は逃がさない、と言うように江奈を射竦めていた。
柿谷は江奈の手を握って先を歩く。
「ちょ、柿谷、どこいくの」
「お前んちだ」
江奈は驚いて手を引いた。
「はっ?何言ってんの勝手に」
「俺は寮生活だし、ここいらの店は未成年は長居出来ない。どこかで時間を潰したとしても遅くなると帰りが物騒だし」
これは…何とか納得できるような説明をしないと離して貰えそうにないようだ。江奈は懸命に頭を捻るが名案は浮かばない。
「どこの駅?」
有無を言わさぬ口調に、渋々答えた。
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