一章 宿題

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一章 宿題

 自分の部屋の勉強机で、わたし――土師(つちもと)穂花(ほのか)は、一人で黙々と宿題をやっていた。  今日の宿題は、新年度おなじみの自己紹介カードだけ。うれしいなぁ。  ちらりと右を見る。ああ、やっぱり、ある。  わたしの特技は、いちおうピアノ。でも、大好きってわけじゃない。練習が嫌いなんだ。  だから、親には、「もう辞めてしまえ」って、よく言われる。でも、辞めたくないんだ。なんでだろうね、嫌いなのに。でも、辞めたらきっと後悔するって、自分のどこかで言ってる――。  宿題も後半に差しかかった。ああ、来た、この質問。一番嫌いな質問。 〈*将来の夢*〉  そんなのわかんないよ。まだ小四だよ。もうちょっと考えさせてよ。  ピアニスト? 作家? それとも、いっそふざけて「王様」とでも書いてみようか。  ピアノの先生が言うには、わたしは「他の子とは違う」、「才能のある子」らしい。  自分ではそう思ってない。だってわたしには、一番かんじんな「好きになる才能」がないから。 「はぁぁぁ……」  おおきなため息をついた。  とりあえず、今は目の前の宿題を終わらせよう。わたしは、再び鉛筆をにぎった。
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