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どう、しよう。
「…えっ………と、」
血の気が引いていくのがわかった。
頭も真っ白になっていって、うまく思考がまとまらない。
さっきまで俺は確かに、家の扉から出た。
そして、すこし足を踏み出して、辺りを見回して____。
振り返ると、突如として、扉が消えていた。
「は、ぁ?」
やっぱり、何度考えても分からない。
こんなことって、本当にあるのか?
何が起きたのかも分からない、ここがどこかも分からない。
どれだけ考えたって、どうするべきかわからなくて。
俺はその場にへなへなと座り込んでしまった。
足の力が抜けたと言った方が正しいのかもしれない。
…あ、花。
ここは森だ、花はあって当然だろう。
だが、実家で毎日のように眺めては甲斐甲斐しく世話をしていた俺にとっては、花は心の拠り所だった。
そして、こんな状況でも、その花を美しいと感じることが出来た。
見事なピンク色の花が滲む。
思わずキュッと口を固く結んだ。
ダメだ、泣いても何も解決しないんだ、そう思っていても口の端が震える。
……ふと、近くで物音がした。
気の所為かもしれない。耳を澄ます。
…鳴った。
ただの風邪か?それとも動物か?
小動物ならいいが、大型の動物だった場合俺はどうなるんだろう。
…死ぬのかな、ここで。
冷静にそう考えてしまった自分が不思議だ。
まだしたいこと、沢山あったな。
家に帰る方法も分からないが、俺のいつもの日常を思い出す。
おっとりしているが逞しい母さん。世界中を旅して、諸国の話を聞かせてくれる父さん。
いつも一緒にバカしてくれるミヤ。頭はいいのにアホなヒロ。年中真顔だがノリのいいヒデ。
彼女が欲しいと夜中まで騒いだこともあったが、なんだかんだ四人で過ごすのが何より楽しいひと時だったな。
別れは突然、なんて耳タコな言葉。
分かってはいても『自分に起こるはずがない』と思っていたからこそ、現実が受け入れられない。
もっと沢山、感謝を伝えておけばよかったな…。
ざ、ざ、と足音は近付いてくる。
無意識に後ずさり、俺の背中は木と衝突した。
…がさっ
「…あれ?子供だ」
「ほんとねえ、動物かと思ったけど…」
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