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はじめまして
そこから、ダリと他愛のない会話を交わす。
今までのごたごたですっかり頭から抜けていたが、そういえば俺は少し人見知りの類に入る。
見知った人相手だと気にせず絡めるんだけど、落ち着いて1対1で話すのは、緊張する……。
でもダリはそんな俺をわかってくれているかのように、ゆっくりとした口調で、会話の主導権を握ってくれる。
聞かれたのは、やっぱり俺の元いた世界のこと。
こちらは常識を話しているつもりでも、ありえない、と目を大きく開かれるので内心びくびくしている。
そして、だんだん思う。
これ、俺の頭がおかしくなっただけ、とか…?
でも、今手に持っている木製コップの感触は、俺の手に堂々と存在感を与えてくる。
この感触は嘘じゃない。花屋の息子として(ただ手伝いをしてただけだけど…)色んな植物を触ってきたけど、これは紛れもなく『木』だし『本物』だ、と、思う。
そうして、自分自身に、この世界の存在にさえ疑い始めていた頃、
「ただいま〜」
シエルの声が玄関から聞こえてきた。
娘さんのお迎えから帰ってきたのだと分かって、それほど時間が経っていたのかと思う。
「おかえり、シエル」
「ただいまダリ」
「いつも『ただいまー!』って元気に走りよってくるお姫様はどこだぁ〜?」
ダリがこれ見よがしに探している素振りをし始める。
お姫様、とは、娘さんのことだろうか。
そういえば、娘さんも人見知りだと言っていた。シエルが帰る途中に俺の事を娘さんに伝えたのなら、自宅にも安心して帰って来れなかったかもしれない…。
「ほら、ジェシカ?ご挨拶なさい、イオリくんよ」
シエルにそう促されて、ダリから手を引かれ出てきたのは…赤髪の、小さな、女の子。
少しだけカールがかかった細い髪と、白い肌、もじもじしながらもしっかり俺の目の前に立とうとしている女の子は、フリルが少しついたワンピースをつけている。
本物を見たことはないが、ダリの言う通り、小さな『お姫様』だと思った。
「あ、あの…じぇ、しかです。よろしくお願いします、イオリ兄様」
礼儀正しくぺこ、と一礼。
それにつられるように俺も彼女の目線に合わせてしゃがみ、一礼しようとして…。
「俺、こそ、はじめまして。…って、『兄様』?」
なかなか、というか俺が人生で一度も呼ばれたことの無い呼ばれ方をされたな…?
シエルがくすっと笑う。
「ジェシカの将来の夢は、お姫様なの。将来のお姫様は、今からもう言葉遣いを綺麗にしなきゃって、いつも綺麗な言葉を使うのよ」
愛おしそうに撫でられたジェシカちゃんは顔を綻ばせた。
「なるほど…。いきなりお邪魔して、ごめんね。改めまして、イオリです。よろしくね」
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