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さあ、朝の斜塔へ向かおう。
私は池のほとりに沿うように歩き出した。後ろを振り返ると、老人の姿はもう消えていた。
これからのことを色々と考える。まずは今着想した呪術を魔導書に書き留め、蔵書院に贈呈する。それを読んだ魔導司書はあまりの素晴らしさに驚き、すぐさま活版を始める。
私の魔導書が配布され、昼の庭中に広まっていく。
術式に感銘を受けた魔創士達が私の元を訪れ、教えを乞うようになる。
そして賢者の筆を手に入れるための試練を与える。間違った詠唱文、術式を正し、それに従わない者を罰する。
理想の魔創理念が出来上がり、人々はその完璧な魔法世界に酔いしれる。
朝の斜塔が見えてきた。ここから私の新たな夜明けが始まる。私は斜塔の入口を見つけると、螺旋階段の一段目に足をかけた。
「アシュラン、すまんのう」
二、三、四段。
「朝の斜塔はさっき思いついたばかりでな、階段数を決めるのを忘れとった」
十、十一、十二段。
「儂は嘘をついた。賢者の筆などありはしない。ただ儂は人の心を惑わす幻惑魔法が操ることができる。お前さんがどうしても昼の庭に戻りたいというから、朝の斜塔という幻影を描いてやった」
百、百一、百二段。
「そしてここは夜の杜という名のような夢のある場所ではない。ここは魔創士達の苦悶が何千年も積み重なった不浄の濁世」
千、千一、千二段。
「頂上などありはしない。永遠にその無限階段を彷徨うことになる」
一万、一万一、一万二段。
「しかしもしその階段を登り切り、頂上をたどり着くことができたなら」
一億、一億一、一億二段。頂上が……
「おめでとう、アシュラン。初めての――」
朝を迎えた。いよいよ賢者の筆を振るう時が来た。
私の至極の魔導書をとくと拝むがよい。
そして私の足下にひれ伏し、首を垂れなさい。
従わぬなら、賢者の筆で記した秘術をもって、今すぐすべての大地を毒の霧で覆い尽くそう。
エンド・オブ・ザ・テルス!
終
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