35人が本棚に入れています
本棚に追加
「夜の杜の新参者か……。ここへはどうやって落ちてきた?」
「昼の庭の魔術図書館に蔵書されている書物を読んでいました。素晴らしい魔導書に触れ感嘆すると同時に、熟読すると不完全な術式であることに苛立ちと憤りを感じました。そうしているうちに、ここに落ちてきました」
「くく、それだけでここに来ることはないだろう? もっと何かをしたのではないか」
「ええ、その魔導書を書いた魔創士達へ指摘の封書を送りました。術式の微妙な矛盾や、詠唱の妨げとなる呪文を見つけ出し、その不勉強な魔創姿勢に対する批評と反省を促す内容を書き記したものを。それを十、百、千と何人にも送りつけました」
「そいつらの尊厳を損ねることになるとしても、よかったのか?」
「その程度で心が折れるようでは、そもそも魔創士となる資質がないのです。そのような者は潰れればよい。魔術は完璧でなければなりません」
「だろうな、しかしお前さん、知っていたか? その所業は呪詛返しとなって己に還り、夜の杜に落ちるということを」
「それは覚悟の上でした。でも私にはここに来るべき目的があったから、それでも構わなかったのです」
老人は椅子を立つと、片足をひきずりながら、私のそばまで歩み寄ってきた。
「ほう、そこまでしてここに落ちてくるとは大したものじゃな。その目的とは?」
「賢者の筆を探しに。その筆はこの夜の杜にあるという噂を耳にしたので」
「賢者の筆がどんなものか、知っておるのか?」
「私は黒魔創士です。暗黒水晶で賢者の筆について調べていました。そしてその筆で刻まれた呪術は、すべての人の心を惑わすという風聞を見かけました。私はその筆がほしいのです。究極の魔導書を仕上げ、私をここに落とした白魔創士どもを見返すために」
最初のコメントを投稿しよう!