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老人がケタケタと下品な顔で笑い始めた。
「いいねえ、お前さん見込みがあるよ。この夜の杜にふさわしい人物じゃ。よかろう、賢者の筆の在処なら知っている。案内してやろう。ところで名はなんと言う?」
「名前ですか? アシュランです」
「まさに修羅を生きる者にふさわしい名だな。気に入ったぞ。ただし、賢者の筆を手に入れるには、それなりの試練が必要じゃ」
「私の目指すところに比べれば、他愛もないこと」
「うむ、まずなあ、ここには道具がない。呪文を書く道具を作れ」
「それこそ賢者の筆ではないのですか?」
「お前はまだよくわかってないのう。それは物ではない、筆に憑依するものなのだ」
「その魔力が筆に吹き込まれるということですね。あなたが持っている……羽根ペンはお借りできないですか?」
「ふざけるな! これは何もないこの場所で、やっと探し当てた不死鳥の羽根で造った儂だけの希少な筆だ。お前などに触らせてやるものか」
老人はペンを懐に隠すと、ヒッヒッと薄気味悪く笑った。
「それでは何を使って、筆を作ればよいのでしょう?」
「そんなことは知らん、自分で考えろ。何でもいい、枝木でも石ころでも、好きなものを用意しろ」
「わかりました。ところで老人、あなたは何故ここにいるのですか?」
「儂か? 儂はなあ、白魔導士だったのだが、大昔の魔法大戦でお前ら黒魔導士の罠に嵌って、ここに落とされた。今となってはどうでもよいことだがな」
「賢者の筆を見つけることはできたのですか?」
「ああ、ここで生活しているうちに発見した。だからお前さんにも教えることができる」
「それはあなたが今持っている羽根ペンに憑依しているのでは……?」
もしそうだとしたら、この老人から羽根ペンを取り上げればよいだけのこと。
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