夜の杜と賢者の筆

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「これか? これは違う。賢者の筆には寿命があってだなあ、しばらくしたら消えてしまった。もう一度探す気力もなくなったから、諦めた」 「その筆で書いた魔術はどうでした?」 「それはもうすごいものじゃった。完璧な詠唱文と術式、恐るべき秘術が展開された。その筆で記した魔法はすべて現実の(すべ)として発現することができる。しかしここでは使い道がないので、あまり意味のないことだがな」  私はごくりと唾を飲み込んだ。早くその筆を手にして、魔導書を書きたいという焦燥に駆られた。 「わかりました、ではその材料となるものを探してきます」  洞穴の階段を駆け上り、鬱蒼とした樹海に足を踏み入れた。辺りを見回すと、折れた枝木は腐るほどあるが、これではすぐに使い物にならなくなってしまう。  ――もっと丈夫で、私にふさわしい美しい素材は  樹海の奥へ進んでいくと次第に霧がかかり、視界は白い幕に覆われた。  しばらく歩くと石がごろごろと転がる場所を見つけた。石を手に取り観察してみるが、筆として使える鋭利なものはなかった。  両手で石の横の湿った泥を掘り返すと白い棒を見つけた。スカートの裾で汚れを拭き取り、握ってみるとかすかな曲線がしっくりと手になじみ、筆の素材としては最高のものだった。 「よし、これがいい」  私はこの妖しく光る棒を見つけ、運命を感じた。  賢者の筆が、私との出会いをきっと待っている。
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