夜の杜と賢者の筆

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 洞穴に戻ると、棒を石に擦りつけて削り、持ちやすい形に整えたところで、老人に問いかけた。 「それで……この棒にどうすれば賢者の筆が憑依するのでしょうか」 「うん? そうだなあ、実を言うとな、ここに落ちてきた者にはすでにその魔力が備わっているんじゃ」 「それでは私はもう賢者の筆を振るうことができるということ?」 「そうじゃ、お前さんは合格したってことだ。賢者の筆を扱うにふさわしい魔創士だということじゃ」 「やはり私にはその才能があったのね……。紙とインクを貸してもらえますか? すぐに書いてみたい」  私の頭の中では、すでに新たな構想が生まれていた。  賢者の筆を使い、紡いだ呪術がすべて現実となる。思い通りの偉大な大魔法を(あやつ)り、強き者が怠惰な輩を焼き払い、永遠に輝く魔法王国を築き上げる。その王国の創造主はこの私。 「ここにはないよ。何もない」 「え? でもあなたは羽根ペンを使って、魔導書を書いていましたよね」 「ああ、あれか。いや、ただ机に向かって書いているふりをしていただけじゃ」  急いで机の前まで歩いていく。どこを探しても、紙もインクもない。 「どういうこと? あなたは賢者の筆を手に入れたと言ったはず。騙したのね!」 「騙してなどおらん。賢者の筆には紙もインクもいらん。(くう)に記した大魔法の呪文は儂の頭の中に刻まれていた。しかし今となっては忘れてしまっただけだ」 「文字に残すことができないのなら、もうここにいる意味はない。昼の庭に戻るわ」 「昼の庭には戻れんよ」 「どういうこと?」 「昼の庭に戻る道はない。一度落ちたら、ここで生きていくしかないんじゃ。ここの生活も悪くないぞ。邪魔も入らず、自分の理想の魔導書を書き続けることができる」 「うそおっしゃい。本当はここを訪れた魔創士達は昼の庭に戻り、伝説の古文魔導書を残していったのでしょう? どこに帰り道があるの、早く言いなさい!」
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