夜の杜と賢者の筆

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「ああ、思い出した。洞穴を出ると、すぐ見えるはずじゃ」  私は老人を引き連れ、出口へと向かった。洞穴を出ると、私が落ちた池の向こう側に、空を覆う暗雲に突き刺さる傾いた塔がそびえるのが望めた。 「儂は足が悪いから、あそこまで歩くのは無理じゃ。お前さん一人で行ってくれんか?」  たしかに老人を連れて、池の反対側まで向かうのは時間がかかりすぎるかもしれない。ここは私一人で行ったほうがよいだろう。 「わかったわ、私一人で行く。これまで色々世話をしてくれて、助かったわ。あなたが昼の庭を訪れたときは、融通が効くよう取り計らってあげましょう」 「いやあ、それはありがたいなあ。アシュラン様とお呼びするべきかな?」 「アシュランでいいわよ。あなただけ特別に許してあげるわ」 「ではそのときが来たら、よろしく頼むな」  老人はゆっくりと頭を私に下げた。偏屈な老人だったけど、やっと私の偉大さを理解したようね。 「ところでアシュラン」 「何かしら?」 「儂の名は聞かぬのか?」 「私は人には興味がない。あるのは賢者さえ畏怖する究極の魔導書を創り上げることだけ」 「そうか……儂の名はハキムじゃ」 「さようなら、フール」
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