今日、あなたを卒業します

1/1

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「3年B組、相川まさと」「はい!」  相川くんはスッと立ち上がり、背筋を伸ばして壇上に上がっていく。  その凛々しい姿を見納めにして、今日、卒業します。  …あなたから。  あなたは卒業証書を受け取り、壇上から降りて…私に向かって歩いてくる。  私は真っ直ぐ前を見るフリをして、確実にあなたを視界に捉えている。  …そしてあなたは私と目を合わせることなく、私の横を素通りして行く。  この瞬間が、一番切ない。  式のリハーサルで、何度も味わったこの気持ち。  …今日が最後だ。  小学1年生の時からずっと好きだった相川くん。  同じクラスになった事は、9年間でその1年生の時だけだった。  6年生の時、他に「いいな」って思う男の子はいたけれど、やっぱり心の中に相川くんがいた。  中学生になって、同じ委員会に入った時は泣いて喜んだ。  委員会は半年間だけの任期だったし、話す事は1度もなかったけど、月1の委員会の集まりが待ち遠しかった。  あなたは県内一の進学校を受験する。  私は逆方向の高校へ推薦入学が決まっている。  今後私とあなたの人生が交える事は、無い。  告白する勇気も、「入試、頑張ってね」と声をかける勇気もない。 「相川くん…大好きでした」  卒業証書入れにあなたへの気持ちを閉じ込め、蓋をする。  いつか、いい思い出だったと思える頃まで…。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加