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「3年B組、相川まさと」「はい!」
相川くんはスッと立ち上がり、背筋を伸ばして壇上に上がっていく。
その凛々しい姿を見納めにして、今日、卒業します。
…あなたから。
あなたは卒業証書を受け取り、壇上から降りて…私に向かって歩いてくる。
私は真っ直ぐ前を見るフリをして、確実にあなたを視界に捉えている。
…そしてあなたは私と目を合わせることなく、私の横を素通りして行く。
この瞬間が、一番切ない。
式のリハーサルで、何度も味わったこの気持ち。
…今日が最後だ。
小学1年生の時からずっと好きだった相川くん。
同じクラスになった事は、9年間でその1年生の時だけだった。
6年生の時、他に「いいな」って思う男の子はいたけれど、やっぱり心の中に相川くんがいた。
中学生になって、同じ委員会に入った時は泣いて喜んだ。
委員会は半年間だけの任期だったし、話す事は1度もなかったけど、月1の委員会の集まりが待ち遠しかった。
あなたは県内一の進学校を受験する。
私は逆方向の高校へ推薦入学が決まっている。
今後私とあなたの人生が交える事は、無い。
告白する勇気も、「入試、頑張ってね」と声をかける勇気もない。
「相川くん…大好きでした」
卒業証書入れにあなたへの気持ちを閉じ込め、蓋をする。
いつか、いい思い出だったと思える頃まで…。
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