Chapter1

22/27
前へ
/112ページ
次へ
そして定時過ぎ。 「津田島さん、どうかな、考えてくれた?」 「……はい」 常務に呼ばれて、転勤の打診についての返事を聞かれた。 「ごめんね。もうちょっと考える時間が必要だとは思ったんだけど、人事部が一日中うるさくて」 「いえ。私のわがままで時間をくださったのですから、むしろすみませんでした」 「いいんだ。……それで、どう?」 「……私───」 ゴクリ。生唾を飲み込んで。 「……私も、福岡までご一緒させていただいてよろしいでしょうか」 胸の痛みを隠すように、笑って返事をした。 土日、ずっと考えていた。 行くべきか、行かないべきか。 同期や先輩にも相談してみたら、皆"キャリアを積みたいのなら、寂しいけど絶対に行くべき"だと頷いてくれる。 新支社の立ち上げなんて、そうそう関わることができるものでもない。 本当に忙しいだろう。けれどその分学べること、成長できることに関してはここにいる比ではないとも思った。 常務は数年と言っていたけれど、それが明確に何年かは決まっていない。すぐに本社に戻って来れるとも限らない。 支社が軌道に乗るまで、が本来の任期だろう。 それに私は常務付きの秘書だから、軌道に乗った後も常務が残ると言えば残ることになる。帰ってこられる保証など無い。 それでももう、行くと決めた。挑戦すると、決めた。
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2847人が本棚に入れています
本棚に追加