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夕日に出づる雲
放課後、下駄箱に行くとそこでは昨日と同じように霜月が突っ立っていた。その手には、あの十円玉が握られていた。
その十円玉を、彼は食い入るように眺めていたのだった。
「霜月くん」
「え、あ、あ」霜月は慌てて十円玉をポケットに入れた。「何」
「いや、何でもない」
「‥‥‥」
出雲はそのまま下駄箱から覗く、一点の曇りもない青空に視線を向けた。そんな景色を眺めながら、この青空みたいに、一切の陰りがなく澄んだ心を持つ人間なんて、この世にはいないんだろうな、とふと思った。
「あのさ」
「ん」
「霜月くんって、探偵みたい」
「探偵‥‥‥いや、俺は探偵じゃない」
「だけど、探偵みたいなの」
「ふーん」
まるで自覚がない様子で、彼はぼーっと何もない天井を眺めていた。しかし、その反応はいかにも霜月らしかった。
そういう謙虚さがいちいち鼻につく。
「いつか、抜かすから」
「抜かしてみなよ」
ふと霜月を見ると、彼はいつも通りのポーカーフェイスでこちらを見ていた。
その表情の裏にだって、きっとなにか深い感情があるはずだ。
そう思うと、自然に笑いが込み上げてきた。
すべての出来事は、突然訪れる。それはそう、夕日に出づる雲のように——
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