事件

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 集まったお金は、放課後にまとめて集計を取ることになっていた。  しかし、環境委員会の全員が集まっても仕方がないということで、代表として出雲と、もうひとり生徒会の会計を兼任している成田学(なりたまなぶ)がお金の集計を任せられていたのだった。 「いやぁ~、面倒くさいねぇ。生徒会の会計だって理由で居残りなんてさ。そう思わないか、生徒会長さん?」  成田はいちいち嫌味のある発言をする。はっきり言って苦手なタイプだ。いつもだるそうに、ニキビ面をぽりぽりと搔いている。 「別に」 「ほらまた『別に』って。沢尻エリカかよ」  彼はおそらく、高校受験を有利にするためだけに生徒会に入ったのだろう。頭も悪そうだし、リーダーシップもない。  いい学校に入学したいがために特にやる気のないまま無鉄砲な行動をとる、貪欲の塊だ。 心の中で毒吐きながら、借りてきた鍵でドアを開ける。  「集計の紙は?」  「あるよ」成田は眠そうな顔で答えた。「早く帰りたいから、とっとと終わらそうぜ」  成田は机に座ると、目の前に並べられた募金箱に手を付けた。  「やるならちゃんと量ってね」  席を取られたので、出雲は傍らでそう茶々を入れた。  「分かってますよ」そう投げやりに答えると、机の上に置いてあるはさみを手に取り、募金箱を切り始めた。取り出せる穴を作っていなかったので、お金を取り出すには切るほかないのである。「まあ、一つくらい盗んでもいいだろ」  などと呟きながら募金箱を開け始める。  彼が期待するほどの額はないだろう、と哀れな視線で出雲はその様子を見守っていたが、そこで成田は動きを止めた。  「あれ?」  「どうしたの?」  「空っぽ」  「え?」  彼は雑に切り開いた募金箱を軽く振ってみた。  そうすると、数枚の一円玉が乾いた音を立てて床に落ちた。どうやら、この数枚の一円玉が彼には見えなかったらしい。  「はぁ? これだけかよ」  おそらくこの募金箱は出雲のものだ。そのことを彼は知らないだろうが、なぜか情けない思いだった。 「次はこっちだ」  この調子だと、麻希の募金箱を見れば目を輝かせることだろう。  成田ががっかりした様子で次の募金箱の開封にとりかかる。募金箱に穴が開いた。さあ、どんな反応をするか。 「あれ?」  今度も、彼は募金箱を振り始めた。思わぬ事態に、出雲は募金箱の中身を覗き見る。 「え?」  出雲も、思わず声を上げた。  空っぽだ。何も入ってない。  あり得ない。  今朝、麻希の募金箱に色んな人がお金を入れていたはずだし、少なくとも出雲より何倍もお金が入っていたはずだ。 「おいおい、今朝の当番誰だよ。何も入ってねぇじゃん」 「でも、そんなわけ‥‥‥」  頭が混乱していた。  そんなはずない。  募金箱の中には、確かにお金が入っていたはずだ。  なのに、今やそれは煙のように消え失せてしまった。 「合計は‥‥‥一円が一枚と、5円玉一枚。六円だってよ!」  そこで、成田が哄笑した。  出雲も笑い飛ばしてしまいたい気分である。 「盗まれた‥‥‥」 「ん?」 「だって、そんなはずないよ!」出雲は改めて募金箱の中を覗いてみた。しかし、中身は何度見ても空っぽだ。「今朝はお金が入ってたから」 「おいおい、何言ってるんだよ、生徒会長」  成田は呆れたように髪を掻きまわす。  窓の外では、分厚い積乱雲がゆっくりと発達していた——
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