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前夜
——自宅にて。
今日の奇妙な出来事は忘れて、勉強しようと机と向き合ったものの、やはりあのときの光景が何度も脳裏を去来し、まったく勉強に集中することができなかった。
シャープペンシルを握ったまま、しばらく固まる。
なぜいきなり麻希は泣き出したのか。
そして、霜月のどんな読みが当たっていたのか。
それが気になりすぎて、矢も盾もたまらないでいたのだった。
ちょうどそのタイミングで、スマホが振動した。画面を見ると、あの麻希からである。
「もしもし?」
『麻希だけど‥‥‥』
「うん」
『その、霜月の連絡先って、持ってるかな?』
「霜月くんの? ああ、そういえば、訊くの忘れた」
『じゃあ、明日でもいいから、伝えておいて。『ありがとう』って——』
「え?」
訊き返そうとしたとき、電話が切れたことを報せる効果音が耳に響いた。
『ありがとう』‥‥‥?
麻希と霜月の間でいったい何が起こっているのか、ますます分からなくなってきた。あのときの麻希の涙は、嬉し涙だった、ということだろうか。
脳裏で、何かが疼く。
胸に靄が残って、気分が悪くなってきた。
もう、寝よう。
出雲は結局何も分からないまま、眠りについた。
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