純粋に、清らかに

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──そう、忘れもしない。あれは入学式の頃。恥ずかしながら私、宵待帷は高校生活初日に初の遅刻を犯してしまった。  原因は寝坊。普段と同じ時間に起きたのに、今日は偶々眠りが浅かったのか、通学中の電車で寝漕けるという大失態。 「あ〜〜っ…」  頭を抱え、惨めなうめき声が漏れる。去年からずっとこうだ。受験の日に限ってお腹を壊し志望校の試験を受けられずに逃して、一年みんなと時間がズレてしまった。  そして、やっとの思いで入学式、というタイミングでこれだ。自慢ではないけれど、これまでの学生生活合計9年間、無遅刻無欠席を貫いてきた。  恥。そう、誰にも褒められないが、大切に守ってきた記録を、あまりにくだらない理由で破ってしまったことに、強い羞恥心で蹲る。  どう足掻いたところで遅刻は確定。そんな事実に絶望するなか、自転車が私の脇に止まったことに気が付き、徐に顔をあげると…、 『どうした、もしかしてお腹痛いのか?』 ──それが、私と先輩との出会いでした。事情を聞いた先輩は、即座に二人乗りを提案すると、あれよあれよという内に、人生初の二人乗り(ノーヘル)を実行することに。  結果、ぎりぎり時間内に着いた私たちは裏口からこっそり侵入し、何事もなかったかのように教室へたどり着くのだった。  限りなくアウトよりのセーフで始まった、私の高校生活。そんなぶっ飛んだスタートを決めさせた張本人へ関心が集まるのは自然な流れだった。  普通、違う学年のフロアに立ち入るのは気構えするものだけど、本当は同年代の私はそうはならなかった。虱潰しに全クラスを当たり、先輩のプロフィールを収集した。 ──白峰暁月。友達はそこそこいて、勉強熱心でもなければ部活に精を出す訳でもない、探せばどこにでも居そうな、一つ上の先輩。  そんな彼と接点を持つために、最初に始めたことが、生徒会委員になることだった。  十把一絡げの生徒の一人では個人の視界に、意識に入り込むなんてできない。ましてや同級生でもないなら尚更だ。  だから、偶然を装い応援演説の相手として先輩を抜擢した。作戦は功を奏し、私と先輩の交流はここから続いていくことに。 …ただ予想外だったのは、入学式の時に私と会っていたのを、先輩が忘れていたことだった。これは流石にショックを受けた。 …まあとにかく、それから学年合同イベントになる度にスケジュールを徹底的に調整し、アピールできる時は可能な限り行い、彼の注目を得られるよう粘り強く努めた。  正直、これがいわゆる恋とかいう浮ついた感情なのか、自分でもよくわからない。一目惚れなんて愛じゃないかも、と自覚はある。  でも、はっきりとわかったことがある。この2年間、学校の行事などでダンスをしたり、度々男性と触れ合う機会があった。 ──確信した。他の男子はダメだ。先輩でなければ受け入れられない。私は、先輩が心から好きなのだ。そして…、 「…私、先輩以外の遺伝子いらないわ」 「それは極端すぎませんかねぇ!?」
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