純粋に、清らかに

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 いったい、これからどんな恐ろしい仕打ちを受けるのか。そんな心持ちとは裏腹に宵待は微笑む。 「そんなに怯えないでください。言ったでしょう。私は先輩に恨みはありません。確かにムッとはしますが、それだけです」  ならなぜ、という問いを口にしようとしたその瞬間、彼女は細い指を自身の首元にかける。 「──!?」  するする、と衣擦れの音が静まり返った一室に響く。目の前の光景があまりに現実味が無さ過ぎて、動揺して必要以上に瞬きを繰り返す。 「…待て、何をする気だ。なぜ服を脱ぐ必要がある!?」  手に嫌な汗が溜まり、滴り落ちる間にも、彼女は一枚、また一枚と衣を床へと落としていく。  その度に、白磁のような肌が露わになる面積が増えていく。 「何って、先輩から頂くもの頂こうと」 「第2ボタンじゃなくて!?」 「それもいいと思いましたけど、やっぱり先輩の遺伝子ほしいなって」 「しれっと凄いことのたまうなぁ!?」  ぱさり、と布が落ちる音がする。スカートが床に落ち、宵待は目の遣りどころに大変困る姿になっていた。 「大丈夫です。責任取れとかそんなこと言いませんから。人生の墓場へ一緒に埋葬されましょう」 「バカ、在学中にそれは、なんか、色々ヤバいですからっ!」 「平気です。先輩と私は18歳。ふたりとも成人なので法律は違反していません!」 「クソっ、司法の敗北かよ!」  法律すら味方にならないとなると、いよいよもって交渉の余地が無くなってくる。 「待て、落ち着け。早まるなっ」 「大丈夫。私も初めてですから」 「そういう問題じゃないんだが!? というかそんなこと言うな、はしたない!」 「ご安心ください。ソッチの方も予習済みです。先程までのトークもその一環です」  どおりで言動がおかしいと思った。いや、それよりも今の状況は非常にまずい。双方の人生の指針に関わる。 「や、やめろ、やめるんだ。一時の感情に乗せられるなっ。自分を大切にしろォ」 「ふふ、相変わらず優しいですね先輩。安心してください、先輩の子はちゃんと育てますから」  ダメだ、聞く耳を持たない。何言ってもプラスに変換される。ポジティブハートってレベルじゃない。 「それに自慢ではないですが、この2年間自分を磨き続けました。どうですか、今の私?」  くるり、とダンスを踊るようにターンする。なびく黒髪が清楚さを感じさせつつ、はだけた制服からこぼれる色々が、煽情的だった。 「…見惚れました?」 「…ぐっ、それは…」 「私、先輩のために綺麗になりましたよ? 初めての相手としては悪くないと思いますが」  確かに、こんな見目麗しい女の子で卒業できるなら、男冥利に尽きよう。しかし、殆ど凌辱のように奪われるのはどうかと思う。  本能と煩悩と理性その他諸々がせめぎ合うなか、宵待が迫る。ボタン全開で身に付けている可愛らしい下着が丸見えで、非常にやらしい。 「ほら、観念の時です。据え膳食わぬは男の恥、と言うでしょう?」 「それ、お盆ごと突っ込んできてないかなぁ!?」  そうこうしている内に、宵待は膝に乗っかかる。確かに感じられる体温から、眼の前に起こる出来事は夢幻ではないと伝えてくる。 「ふふっ、夕暮れ時に二人だけの卒業式なんて、ロマンチックですね」 …微かに差す夕陽に照らされる宵待の笑みは、悔しいけど美しく見えた。  そんな彼女に見惚れている隙に、顔が急接近して、唇同士が触れ合う。  柔らかなそれに触れた途端、色々働いていた理性が一斉にサボタージュする。 「──先輩。愛しています」 ──3月の空が暗くなってゆくなか。窓際に生けられた花瓶の花が、人知れず散っていた。
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