3人が本棚に入れています
本棚に追加
5
それからの展開は急だった。
年上の男が無線で連絡したらしく、警察と医者がやってきて、エマの死亡を確認した。
「埋葬しなきゃならんな」
と、警官が言った。
エマは大声で叫びたくなった。
埋葬だって? なんてこと言うんだ。やめておくれ。あたしゃ、まだ生きてるんだよ。
声にならないその叫びを聞く者はだれもおらず、やがて葬儀屋が棺を運んできた。
やめておくれ。やめておくれったら。
心のなかで叫びつづけるエマを、男たちは協力して棺のなかへと移動させる。丁重な扱いだった。
棺のなかに仰向けに寝かされたエマは、家の天井を見上げることになった。古ぼけた木の天井はわびしいばかりだった。
葬儀屋の男が手をのばして、エマのまぶたをおろす。死者を悼んで、親切でしたことなのだろう。しかし、エマにとっては、世界が見えなくなるというのは、それだけで恐怖だった。
あああ……。
エマは声にならない声をあげて、泣いた。
どうして自分がこんな目に合わなければならないのか。ダニエルとそのつれの女を射殺したからだろうか。死体は家の裏の森のなかに埋めておいた。でも、あれはみんなダニエルが悪いのだ。わずかばかりの遺産の分け前をよこせというからだ。
そうよ、あたしはなにも悪くない。
そんなことを考える間に、棺の蓋がとじられた。まぶたの裏に感じられていた光も消え、世界はまったくの闇になった。
助けて。だれか、ここから出して。
エマがどれだけ助けを乞うても、棺のなかの声にならない言葉を、だれも聞くことはない。
そのまま棺は墓場へ運ばれ、地面に深く掘った穴の底におろされるだろう。
ああ、神さま、お願いです、あたしに救いの手を……。
天に向かってエマが懇願するあいだも、その棺の上には、冷たい土が次々とかけられていくだろう。やがて棺は、黒く湿った土の底に埋もれることになる。
その先には、エマにとって永遠に続く闇が待っている。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!