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 それからの展開は急だった。  年上の男が無線で連絡したらしく、警察と医者がやってきて、エマの死亡を確認した。 「埋葬(まいそう)しなきゃならんな」  と、警官が言った。  エマは大声で叫びたくなった。  埋葬だって? なんてこと言うんだ。やめておくれ。あたしゃ、まだ生きてるんだよ。  声にならないその叫びを聞く者はだれもおらず、やがて葬儀屋(そうぎや)(ひつぎ)を運んできた。  やめておくれ。やめておくれったら。  心のなかで叫びつづけるエマを、男たちは協力して棺のなかへと移動させる。丁重(ていちょう)な扱いだった。  棺のなかに仰向けに寝かされたエマは、家の天井を見上げることになった。古ぼけた木の天井はわびしいばかりだった。  葬儀屋の男が手をのばして、エマのまぶたをおろす。死者を(いた)んで、親切でしたことなのだろう。しかし、エマにとっては、世界が見えなくなるというのは、それだけで恐怖だった。  あああ……。  エマは声にならない声をあげて、泣いた。  どうして自分がこんな目に合わなければならないのか。ダニエルとそのつれの女を射殺したからだろうか。死体は家の裏の森のなかに埋めておいた。でも、あれはみんなダニエルが悪いのだ。わずかばかりの遺産の分け前をよこせというからだ。  そうよ、あたしはなにも悪くない。  そんなことを考える間に、(ひつぎ)(ふた)がとじられた。まぶたの裏に感じられていた光も消え、世界はまったくの闇になった。  助けて。だれか、ここから出して。  エマがどれだけ助けを乞うても、棺のなかの声にならない言葉を、だれも聞くことはない。  そのまま棺は墓場へ運ばれ、地面に深く掘った穴の底におろされるだろう。  ああ、神さま、お願いです、あたしに救いの手を……。  天に向かってエマが懇願(こんがん)するあいだも、その棺の上には、冷たい土が次々とかけられていくだろう。やがて棺は、黒く湿った土の底に埋もれることになる。  その先には、エマにとって永遠に続く闇が待っている。                               〈了〉
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