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ダニエルは、下品な感じの女とつれだっていた。ふたりとも麻薬でもやっているのかもしれない。顔色が悪くて、目が変なふうにゆがんでいた。
確かに父の遺産は、わずかながらあった。しかしそれは、エマが細々と生きていくための大事なお金だ。
エマはダニエルの要求を拒否した。それから、さんざんにすったもんだがあったものだ。
しかし、本当に悪いことがおこったのは、それからだった。
いまや世界中で問題になっているゾンビ化した猫が、エマの家のなかに入りこんできたのだ。
たぶん、ダニエルの車に忍びこんでやってきたのだろう。エンジンルームに猫が入りこむ、というのはよくあることだ。
ゾンビ化した猫は、エマの飼い猫に嚙みついた。まず、ヒューがやられ、ミィもやられた。
ヒューとミィは死に、ゾンビ化した。そして、残る一匹のジェイに噛みついて、ゾンビにしてしまった。
かわいかった三匹の飼い猫が、いまでは血にまみれた、おぞましいゾンビになっている。
まったく、なんてことだろう。
チェアに腰かけたまま、エマはひざにのった猫を見る。
ヒューだ。のどをえぐられ、流れでた血は白い毛をよごして、赤黒いかたまりとなっている。愛らしかった顔は、凶暴にゆがみ、目はどろりとにごっている。
すっかり変りはてたヒュー。でも、それでもエマにとっては、家族の一員なのだった。
もしかしたら――。
と、エマは思う。もしかしたら、さっきの車でやってくるのは、ゾンビ化した猫を狩る、猫ハンターなのかもしれない。
そんな疑いを持ちながら、再び丘のほうを見る。
車はすでにこちらへの下り坂にはいったらしく、森の陰に隠れて見えなくなっていた。
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