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猫ゾンビ・ウィルス――。
正式には、なんだかむつかしくてややこしい名前があるらしいが、一般にはそう呼ばれている。
始まったのは、一年前のことだ。
世界のあちこちで、飼い猫が、猫ゾンビ・ウィルスに感染しはじめた。
感染した猫はほぼ百パーセント死んで、その後、いわゆるゾンビとなってよみがえる。ゾンビ化した猫は、ほかの猫に噛みつき、そいつもゾンビにしてしまう。そうして、またたく間に世界中の猫がやられた。
同じネコ科の動物でも、虎やライオンには影響がなかった。ペットとして飼われている猫と野良猫の間に広がっていったのだった。
ゾンビ化した猫は、人間も襲った。
噛まれたり、爪でひっかかれた人間は、たいていの場合、二、三日発熱するだけだ。しかし、二百人にひとりの割合で、死にいたる場合があった。ただ、人間は死んでも、ゾンビとなってよみがえることはなかった。
それでも危険なことに変わりはない。
世界中で猫狩りが行なわれた。ゾンビ化した猫は、首を切断されたり、頭を撃ちぬかれると死ぬ。そうして殺した猫を行政に持ちこむと、賞金がもらえるのだった。その結果、ゾンビ化した猫を狩る、猫ハンターなる商売人も現れた。さっきの青いバンも、そうした猫ハンターの車かもしれなかった。
ちくしょう、ダニエルさえ来なければ。
エマは胸のなかで毒づいた。
ダニエルさえ来なければ、ゾンビ化した猫が入りこむことはなかった。人里はなれたこの家でひっそりと暮らす、ヒューも、ミィも、ジェイも、いまごろは、かわいらしい飼い猫のままだったのだ。
考えてもしようのないことだ、と嘆いたそのとき――。
車のエンジン音が近づいてきて、家の前で止まった。
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