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「うーん、四匹か」  若いほうの男が床にころがった猫を見おろして言った。「遠出してきたんだから、もうちょい欲しかったな」 「贅沢(ぜいたく)をいうな」  年上の男がいさめる。「無駄足(むだあし)にならなかっただけ、ましってもんだ。袋詰め、たのんだぞ」 「ああ」  若い男が、ズダ袋を取りだして、猫の死骸を納めていく。  年上の男は、ポケットから取り出したハンカチで、剣についた血をていねいにぬぐった。剣を(さや)に納めると、エマのほうをさぐるように見ながら、近づいてきた。エマの前でしゃがみ、彼女の顔をじっとのぞきこんでくる。 「やっぱりダメか?」  と、猫を袋詰めしながら、若い男が()いた。  年上の男は答える。 「ああ、死んでいる。足も、手も、首筋も、ゾンビ化した猫に()まれている。ここからウィルスが入って、やられたんだな。つい昨日のことかもしれないし、二、三週間前のことかもしれない。猫ゾンビ・ウィルスに感染して死ぬと、ほとんど腐敗しないからな。いつ死んだのか、見当がつかない」  なに言ってるんだ。冗談じゃない。  男の話を聞いて、エマは心のなかでそう叫んだ。あたしゃ、まだ死んでなんかいないよ。  もちろん、彼女の気持ちが、実際の声となって外に出ることはない。エマは、意識こそあるものの、身体を動かすことがまったくできないのだった。手足はもちろんのこと、舌も動かせない。だから、声ひとつたてられない。  きっと、これまでゾンビ化した猫に噛まれて死んだと思われていた人間たちも、みなこのように、意識だけはあったのだろう、とエマは思う。 「どうする?」  若い男が訊くと、年上の男が少し考えてから答える。 「このままにもしておけないだろう。警察へ連絡しなきゃならん」 「ええー」  若い男は不満げに声をあげた。「事情(じじょう)聴取(ちょうしゅ)だのなんだの、面倒だぜ」 「しかたないだろう。おれたちがここへ来たことは、町の連中も知っている。あとでゴタゴタするよりは、ちょっと辛抱(しんぼう)して、良い印象を売っておくんだよ」
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