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遠くにその車の影を見たとき、エマはいやな予感をおぼえた。
エマの家の窓からは、ずっと向こうに、丘のてっぺんをこえる道路が見える。
いま、その道路を、こちらへ向かって走ってくる青いバンがあった。
見慣れない車だ。
初めは、となりの町にあるモニカの店の商用車かと思った。だが、モニカの店の車は黒に近い灰色で、あれより少し大きかったはずだ。
なんの車だろう?
エマはいぶかる。
あの道路は、丘の上からエマの家まで続く一本道になっている。だから、あの車はエマの家に来るつもりなのだろう。
エマの家への来訪者など、久しくなかった。
父が一年と少し前に亡くなり、それまで月に一度か二度、ポーカーをしに来ていた父の友人たちの足も止まった。
毎年、夏になると、外国に住むリンダ叔母さんが訪ねてくる。今年の夏も来た。次に来るのは半年以上も先のことだ。
ほかに訊ねてくる友だちはいない。あの車は、どう考えても予定外の来訪者だ。たぶん、ろくでもない、歓迎できない客である可能性が高い。
弟のダニエルがそうだった。
二週間ほど前、エマが三十八歳の誕生日を迎えたその日に、ダニエルがやってきたのだった。
ろくでなしの弟だった。学生のころから、悪い仲間とつるんで悪いことばかりしていた。そして十年前、離婚したエマが出戻ったのと入れ替わるようにして、家を出ていった。それっきり音沙汰もなかった。
それが、どこかで父が亡くなったのを聞きつけたのだろう。あの日、突然やってきたのだ。
――金をくれよ。おれの分の遺産だよ。
そんなことをほざいた。
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