十二

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「僕、ずっと磯貝さんに憧れてたんだよ。たまたま、宝島病院で再会した時、ほんとうに嬉しくてさぁ、ワクワクして飛び上がりたくなった。何度も付き合ってって申し込んだのに、最初は、なかなか本気にしてくれなくて、本当に切なくて大変だったんだよ」 「だけど、磯貝さんが本気にしない気持ちは分かる気がします。氷室先生って、いつもチャラチャラしているんだもの」  智美がそう言うと、氷室は心外だと言うように口許をツンと尖らせた。 「そんなことないよ。僕、一途だよ」 「はい、はい。今なら、そうだなって分かりますよ」  何しろ、こんな形で駆け落ち騒動まで起こしているのだもの……。 「でも、氷室先生、これから、どうするんですか?」 「うん。磯貝さんと一緒に暮らすよ。あんまり贅沢できないけどね。僕は平気さ」  氷室の心に迷いはないようだが、磯貝は不安そうにしている。 「でも、あたし、本当はちゃんと認めてもらいたいな。御両親と御挨拶したいのよ。一度も御家族と会ったことないの」 「磯貝さんを両親に紹介せずに結婚したんですか?」  それは、ちょっとどうなのよ。呆れたように氷室に視線を寄せると、拗ねたように言った。 「だってーー、うちの親が、そんな得体の知れない娘とは会いたくないって言うんだもん。どうせ、その女は財産目当てのろくでもない女に決まってるって言うんだよ。そんなんじゃ、会わせられないよ。磯貝さんの事を悪く言うに決まってるよ」  しかし、智美はムキになって異論を唱えた。 「そんなことないですよ。実際に、磯貝さんと接したら人柄が伝わりますよ」  親御さんも、顔を見ない相手の事は認められない。    「言葉を交わさないまま理解してもらおうなんて、そんなの無理です。トイレでヤンキーに苛められた事や、見合い相手の金持の令嬢の悪行とか、全部、言うべきです。そしたら、親も、氷室先生の気持ちを理解してくれると思います」  愛は目には見えにくい。大切な事は目には見えない。 「あたしも、氷室さんがどういうタイプの女性が好きかなんて知りませんでした。とんでもない悪い女に騙されても不思議じゃないと思っていました」 「ええーーー。そんなふうに見てたの」 「はい。そうです」  そこで力強く言い切っていく。 「氷室先生の家族が信頼していないのは、磯貝さんというより、息子なのかもしれませんよ。正直、あたしは、氷室先生はロリコンかもしれないと思ってましたからね」 「ええーーーー。なんでそう見えるの?」
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