十二

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「あら、そうよね。襲うのは息子の方よね……」  ふふふと笑う東城だったが、少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。  潮風と波の音を感じながら、智美は南の島で一人の男性を想った。 (江口先生……。あなたが好きです)  ああいう事件が起きなかったら、医師である江口に告白しようとは思わなかったかもしれない。     ☆  早朝と言える時刻に目覚めた。時間経過と共に細やかに色を変えていく海の色。砂浜にポツンと膝を抱えるように座っていた。綺麗な朝焼けに包まれた状態で心を癒したい。 「おはよう。こんなところに一人でいると危ないよ」  背後から声をかけてきた人が誰なのか振り向かなくても分かっている。 「大丈夫ですよ。あっちに磯貝さんと氷室先生がいます。二人は、あたしよりも早く目が覚めたらしいんです」  磯貝と氷室は、なぜか綺麗な砂浜で柔道の受身のポーズを取っている。懐かしい高校時代を思い出しているのか。何だか楽しそうだ。  江口は、とても眠そうに欠伸をしながら言った。 「夕べは、あんまり眠れなかったよ」 「どうしてですか?」  問うと、バツが悪そうに頭を掻いた。 「そうか。やっぱり、あれは嘘だったんだな。うちの母親が、一人で寝ているオレの耳元で言ったんだよ。内山さんが、夜中、部屋に来て欲しがっているって。だから、こっそり行けって言われて……」  でも、江口は智美の部屋には来ていない。 「そうだよなぁ。絶対、内山さん、そういう事を言う人じゃないと思いながらも、何か、モヤモヤしてさぁ、結局、あんまり眠れなかった。オレって馬鹿みたいだよね」 「そ、そんな事はありません」  もちろん、智美は夜這いして欲しいなんて事は思っていない。けれども、江口が自分の事を考えて悶々としていたと聞いて、一気にパーッと心が華やいだ。 「あたし、江口先生のこと好きです。助けてもらった時、涙が出るほど嬉しかったんです。殺されかけた時、あなたの顔が頭に浮かびました」  最後まで言う事は出来なかった。唇で言葉を塞がれていたからだ。想いを伝えるのに声も大切だけど、やっぱり、江口の場合は眼差しが最も雄弁に心を語っている。  キスの後、智美の頬に手を添えたまま、ずっと見つめている。そして、フッと淡く微笑んだ。 「内山さん……。オレと結婚を前程に付き合って下さい」 「……はい」  そんなのイエスに決まっている。ザッパーン、ザッパーンッという潮騒が二人の世界を包み込んでいる。寄せては返す波の音の狭間をたゆたうような、夜の世界てまどろむような、そんな表情で言った。 「良かった。それを聞いて安心したよ……」  えっ。江口は頭をフラリと前に傾けると、智美膝の上に頭を置いて横たわった。 「体調が悪いんですか? 救急車を呼びましょうか?」
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