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 売店のカウンターの前でミックスジュースが出来るのを待っていると、後ろからトントンと智美の背中を叩く女の子がいた。智美が担当している聖子という中学三年生の患者さんだが、一体、どうしたのだろう。ずいぶんと思い詰めた顔で立っている。  サラサラの肩までのオカッパ頭が愛らしい。秋田犬のようなつぶらな瞳をしており、肌の色が雪のように白い素朴な雰囲気の女の子だ。そんな聖子が、すがつくような顔で話しかけてきた。 「内山先生、あ、あたし、き、ききききき、昨日、見たの」  この子は気持ちが高ぶると吃音がひどくなる。切羽詰まった顔で訴えられても、智美には、聖子が何を伝えようとして踏ん張っているのか分からない。 「見たって何を?」 「き、き、今朝の新聞に橘先生が亡くなったって書いてあったでしょう。で、で、でも、違うの。あれは殺人なの」  ウィーン。厨房の奥からミキサーの音が鋭く響いている。何だか脳みそを引っ掻かれているような気持ちになる。ちゃんと会話をしたいのに無骨な音が邪魔出少しイラッとなる。  グゥィーーーン! 不愉快な騒音の合間をぬうようにして聖子が訴えている。 「み、み、見たの。せ、背の高い女の人が、た、た、橘先生をドンッと突いたの。そ、それで先生は転んで立てなくて……。あたし、助けたかったけど間に合わなくて」  恐怖の現場をリアルに思い返したのか、彼女は苦しげに喉元を押さえて青褪めている。 「せ、先生、あたし、怖いよ。あたし、は、犯人が、だ、だ、誰だか知ってる。犯人、こ、この近くにいる。ど、ど、どうしよう」 「もう少し、詳しく話してくれないかな?」  智美は聖子を誘って売店の奥にあるテーブル席に座らせようとする。ちゃんと順を追って聞くつもりだったというのに、その時、聖子の付き添いの女性がやってきた。聖子の叔母のマリアがは派手な装いをしている。
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