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智希の言葉に舞い上がった楓佳は、そのまま彼の首に勢いよく抱き着いた。胸で押しつぶしてしまったせいで下からは苦しげな声が聞こえたが、喜ぶ楓佳は智希には構っていられない。
「よーし! じゃあ明日さっそく病院に行って健康診断受けて、ホームセンターにも行って……あと名前も決めなきゃね!」
種類や大きさを問わず、生き物を飼い育てると決めた以上はその命に責任を持たなければならない。楓佳にはまだちゃんとした知識がないので、新しい家族を迎え入れるには相応の責任感と心構えと準備が必要だ。
意気込む楓佳の独りごとは子猫にも届いていたらしい。もう簡易寝床からは出て来なかったが、顔だけひょっこりと出してこちらを見つめる小さな子猫の視線の先には、楓佳を抱きしめる智希の姿があった。
「だから、楓佳は俺の奥さんなの。お前のじゃねーって」
「ニャァア……!」
智希の問いかけが届いているのかいないのか、彼が声を掛けるとブランケットとタオルの間から不機嫌な鳴き声が聞こえてきた。だが智希は宣戦布告を切り捨てるようにさっさとベッドライトの灯りを落としてしまう。楓佳としては噛み合わない勝負をしているように思えるが、意外なことにどちらも大真面目だった。
かくして始まった夫と子猫の不毛な喧嘩だったが、彼らが同じポーズでお昼寝をするようになるのはここからほんの数日後の話だ。
――Fin*
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