夫と子猫は喧嘩中

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 楓佳が手を差し出すと、子猫がその匂いを確かめるようにフスフスと鼻を鳴らしながら近付いて来た。そのまま顔を撫でてあげると警戒心が薄らいだのか、子猫は楓佳の手にすりっと顔を寄せてきた。 「にゃんにゃん、きみはお名前なんていうの? 私は楓佳だよ。ふーか」  楓佳の手に触れられたがるように身体を擦り付けてくるので、そんな呼びかけをしながら身体を撫でてみる。智希の言い方だと相当暴れん坊で噛んだり引っ掻いたりしてくるのかと思ったが、子猫は案外人懐こい性格のようだ。  特に嫌がられる様子はないので、一旦その場を離れるとぬるめに絞ったタオルを持って再度猫の傍に近寄る。楓佳が動きを止めると子猫がまた身体をすり寄せてきたので、思い切って猫の身体の下に手を入れ、そのまま腕の中に抱いてみた。  案外大人しい。ならばこれが好機とばかりに子猫の身体を膝の上に乗せ、身体と四つ足の肉球についた泥を湿らせたタオルで優しく拭き取っていく。ぷにぷにした場所に触れると嫌がられるかと思ったが、子猫には心地よかったのか楓佳にされるがままだ。 「人慣れしてるんだなぁ。こんなに可愛いのに、捨てちゃうなんて意味がわからない……」  身体を拭きながら独り言をつぶやく。ほぼ毎日智希に『また独り言か?』とからかわれる楓佳だったが、今日の独り言は膝の上の子猫がちゃんと聞いてくれている。お腹を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らすので、身体を拭き終わる頃には愛着が沸いてこの子を捨てた飼い主に怒りを覚えるようになってきた。
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