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今日の夕食はそんな智希の好物だ。楓佳が働いいている食堂の店主に教わった、和風の漬けだれが美味しい鶏の唐揚げ。そこにサラダとご飯と味噌汁を添えた定食スタイルの夕食を前に、ふと智希が動きを止める。
「……ん? なんでにゃんこ『君』?」
「調べたらオスみたいで」
「は? おまッ……初対面の男の大事なとこ見んなよ」
「は、はぁ……!?」
智希の言い方がおかしい。確かに言葉通りだが、楓佳が確認したのは人ではなく猫の性別だ。しかし驚く彼に『じっくり見てないけど触った』というのもおかしな言い方な気がする。ならばなんと言えばいいのか、と口籠っていると、唐揚げを口にする智希がムッとした表情でこちらを見ないまま信じられない言葉を呟いた。
「言っとくけど、飼わねぇからな」
「なんで!?」
突き放すような智希の言葉に、思わず顔を上げて大きな声を出してしまう。
「え、飼うつもりないのに拾ってくるのは無責任じゃない?」
「飼ってもいいかな、って思ってたけど、今その気が失せた」
「なんで!?」
自分で雪の中から連れ帰ってきたくせに、まさかの『飼うつもりはない』宣言。冷たい雪の降る中で子猫を見捨てるのも可哀そうだと思うが、一度手を伸べておいて再び捨てるのもまた残酷だ。
智希は決して動物が苦手なわけではないし、顔に傷まで作って子猫を連れ帰ってきたのに、どうして? と疑問に思ってしまう。
「明日休みだろ。俺ももらってくれそうな奴に声かけてみるから、楓佳も心当たりありそうな人に聞いて」
「え、ええ……?」
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