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病室のテレビ台にはサンタクロースを形採った折り紙が置いてあった。年に一度の特別な聖夜に、外出できない入院患者へのささやかな気持ちとして看護師が置いたものである。
「あなたが結婚するまでは頑張ろうと思っていたけど、お母さんはもう駄目みたい。栞、あなたを一人にしちゃってごめんなさい」
「お母さん、そんなこと言わないで! 私を一人にしないで!」
「栞……ちゃんとご飯を食べるのよ。ちゃんと学校に行って勉強して、優しい人と出会いなさい」
母の手を強く握る栞は何度も頷く。
「それと、あなたは昔からおっちょこちょいだから、車にはくれぐれも気を付けるのよ」
「その口癖、聞き飽きたよ。大丈夫だよ、私もう十七なんだから」
母は、娘の湿った頬に力なく手を伸ばす。栞はその手を包むように握り締め、小さく笑ってみせた。
「ありがとう栞。もう……帰りなさい」
「……うん」
母と言葉を交わしたのは、これが最後だった。
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