ミライ

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「おはよう、お母さん。今日はクリスマスイブだよ。一緒にケーキを食べようね」  背の低い本棚の上に飾られたフォトフレームの中で、池内(いけうち)(しおり)の母が優しく微笑んでいた。  その隣には、幼少期から一緒に暮らす猫が行儀良く座っている。シルバー色の毛並みをしたキジトラだ。名前はミライ。  栞のスマートフォンを見つけると、画面を触り悪戯(いたずら)をする。ミライが遊ぶ玩具(おもちゃ)の一つだった。触る度に変化する画面が面白いようで、いつも食い入るように見つめている。前に一度、栞の友達へ電話を掛けていたこともあった。  母のいない生活を始め一年が経った。父は若くして病死し、栞が物心付いた時には母しかいなかった。栞の中で母の存在は大きかった。母が亡くなってから、いつだって母が守ってくれていたことに気付かされた一年を送っていた。
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