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〜平凡君side〜
アイデンティティー
独自性。集団のなかで他とは違う自分だけのもの。つまりはその人だけの個性。
「ねぇ、あいつさすんごい暗いよね~。」
「だよね!いつもなんかノートみたいなのに書いててさぁ~。」
「呪いの文とか?」
ははははと俺をあざ笑うクラスメイトの声が聞こえてくるけれど俺は聞こえないふりをして文字を書く手を早めた。
別に呪いの文なんか書いてないし、笑われようがどうでもいいけれどもう少し静かにして欲しい。
(…できた!)
クラスメイトのせいでもやもやしつつ、完成した文字を目で追って脳内で音符マークを出す。
ノートを手に持って眺めながらにやけそうになる口をなんとか1文字に留める。
このノートは別に某作品の名前を書いたら人を殺せるだとかそういった物騒な代物じゃない。勿論、呪の文なんてのも書いてない。
これは俺の歌詞ノートだ。
俺の趣味は音楽を作ること。
別にそれを誰かに聞いて欲しいだとか弾いて欲しいだとか歌って欲しいだとか思っちゃいない。
だだの自己満足。
このノートに書かれた歌詞は俺だけのもので、このノートは俺のアイデンティティーの塊そのものなんだ。
暗いのも俺の個性だ。
俺は放課後になると必ず音楽室へと向かう。
ピアノの前に腰掛けてノートを目の前に置くとそっと鍵盤に手をおいて大きく息を吸った。
ポロンポロン
軽快なメロディーが音楽室を支配する。
ゆっくりと、優しく、軽く歩くように…。
俺が作る音楽はどれも明るい曲ばっかりだと思う。俺の性格とは反対。
誰かを慰めたいとか、誰かの笑う顔が見たいって思うと曲が頭の中に湧いてきてまるで音楽の渦の中に埋もれているみたいになる。
俺は音楽を作ることが大好きだ。
引き終わって俺は小さく息を吐いた。
パチパチパチ
拍手の音が鳴り響く。
ん…?
聞こえるはずのない音に俺は困惑しながらその音の正体を確かめるべく立ち上がった。
「あ…。」
「うまいな。」
入口の所に生徒会長が立っていて、思わず変な声が出た。
俺は何も見なかったふりをしてその場にしゃがみこむと、見間違い見間違いと唱えてから立ち上がってノートをひっつかんで生徒会長が立っている所と反対の入口から逃げるように音楽室を飛び出した。
なんで生徒会長!!!???
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