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3.クマ店員一押しのハンモック
それから、大輝の手をしっかりと握り、
先程の店に戻って、ラグマットやカーテンを
購入した。
「バルコニーはどうする?
せっかくだから私、ハーブを植えたいな」
「オレ、ハンモックかデッキチェアーが欲しいな。春は昼寝が出来るし、夏は日焼けが出来る。秋は、お月見が出来て、冬は、えーと。
雪だるまが作れる!」
「雪だるまは、
ハンモックと関係ないじゃん!」
「そっか」
小学生レベルの会話をしながら、
私たちは愛車のMINIクーパーで、観葉植物や
アウトドア用品が揃っている店へ移動した。
私たちがアイアンウッドのデッキチェアーに
するか、ハンモックにするか迷っていると、
クマみたいに大きな店員が声を掛けて来た。
「このハンモックは、南カリフォルニアで
漁網の技術を生かして作っているものです
ので、かなり丈夫ですよ」
「なるほど」
「マンションのバルコニーに置くのですね。
それでしたら、スタンド付きの方がいいですね。穏やかな休日の午後、ハンモックに揺られて奥様と楽しい一時を過す。素敵ですね~」
「はいぃ」
私と大輝は、クマ店員の大きな声で繰り広げられる想像力豊かなトークと、折り返したシャツからのびた、毛むくじゃらの腕に圧倒され、
クマ店員一押しのスタンド付きハンモックと、
ハンモック部分が袋状になっているハンモックチェアーの2つを購入した。
続いて、観葉植物でいっぱいの階に連れて
行かれ、今度は若い女性店員に、私たちの
案内が引き継がれた。
いろいろと種類がある中、大きな葉が特徴的な
「ロブスター」を大輝は選んだ。
理由を聞いてみると、「別名:ゴムの木」と
書かれた札を指差して、
この別名が気に入った、との事。
あっ、そう。
「ハーブは大きく分けて3種類あります。
バスタイムに楽しむもの、ハーブティーとして
使うもの、それからお料理で主に使用する
キッチンハーブですね」
「そうねぇ。料理に使うのがメインかな」
「でしたら、
ルッコラやイタリアンパセリがお勧めです」
「じゃあ、そのお勧めのハーブとこのレモン
バーム、バジルをお願いします」
店員さんに駐車場まで購入した物を運ぶのを
手伝ってもらい、店を出た時にはすでに日は
沈んでいた。時計を見ると19時前。
「お腹すいたね。近くで食べて帰ろうよ」
「そうだね。いろいろ見て回ったから、
疲れちゃった。大輝は何が食べたい?」
「焼肉がいいな。あとビール!」
「車だから、ビールは家に帰ってからね」
「は~い」
休み明けの月曜日、AM6:30に目覚しが
鳴り、私と大輝の1日が始まる。
プロテインとフルーツ入りのヨーグルトが平日
の朝食。
AM7:30、ブラックの細身のスーツビシッと
着こなした大輝を会社へ送り出し、
その後、私も出掛ける準備を始めた。
私の仕事は、大学卒業後に就職した建築事務所での経験を活かして、結婚後も在宅で建築模型を製作する仕事を続けている。
この仕事はイベントに出展する事が多く、
MCを頼まれる事も度々ある。
つまり新しい仕事の打合せや納品の際にだけ
オフィスへ足を運び、イベントがある時は、
その会場へ行けば良いのだ。
割と時間を自分の好きなように使える、
今の仕事を私はとても気に入っている。
朝からスッキリと晴れ渡った今日は、
名古屋で勤めていた会社から紹介して貰った
西新宿にあるオフィスで打ち合わせがあるので、私は手慣れた手つきでメイクをし、
白シャツに、いい感じにスリットが入った
タイトスカートを合わせて、チェーンベルトでコーディネートをした。
そして今年買ったグリーンのスプリングコート
を片手に持ち、ラメ入りのパンプスを履いた。
外へ出て、駐車場へ向かっていると、
柔らかい風にあおられて、ラインストーンの
スウィングピアスが微かに揺れた。
心が自然と弾む春の気分を存分に味わいながら、気持ちのいい空気を、大草原にでもいる
かのように、大きく吸った。
そして革張りのシートに乗り込むと、ヒールの
あるパンプスを脱ぎ、裸足でアクセルを踏んだ。
ほら、ヒールがあるとアクセルやブレーキが踏みにくいじゃない? 教習所でも、耳にタコが出来るほど注意されたし。
だから私は、車の運転をする時はいつも裸足。
これが慣れると結構、運転し易いのだ。
カーナビも設定したし、さて行きますか!
私の友達は誰もが言う。
外国語ペラペラの外資系ご主人と、家事との
両立もし易い仕事を持っている桃は幸せだね。
それに高級住宅地に住んで、
年に一度は必ず海外旅行なんて羨ましい。
桃は、まだまだスタイルがいいし、さすが仕事
をしているだけあってオシャレよね。
ご主人は、優しくて背が高くて、
日本人離れした顔もクールで素敵。
それに頼りになりそうだし、桃の事、
本当に大切にしてくれているし。
文句の付け所が無い!
ねえ、桃。
正直言って、
悩みなんて何にも無いでしょ......
悩みなんて何にもなんにも無いでしょ......
悩みなんて
何にもなんにもなんに~も無いでしょ......
……はい。
正直言って、
人に相談する程の悩みなんて有りませんでした。
少なくとも、名古屋にいる頃までは。
いや、東京に越してきて、部屋の家具を揃える為に新宿にショッピングへ行った日までは。
いや違う。
あれから一週間が過ぎ、購入した物が全て部屋
に運び込まれ、ダンボールだらけだった部屋が
アジアンチックな落ち着く空間へとなった、
その時までは......
正直言って、
悩みなんて何にも有りませんでした。
でも、今はあるのです!
信じられない事が起きました。
こんな事が現実にあっても良いのでしょうか?
実は、とても云い難い。
というか、表現し難い事でして。
ある意味人には相談できない、というか、
知られたくない事で。
単刀直入に申し上げますと、大輝が、
私の夫の大輝が、
サルになってしまったのです!
もう一度言いましょうか?
山城 大輝 が、
哺乳類のおサルさんになってしまったのです!
自分の中でもまだ受け止められていないので、
少し整理させて下さい。
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