ナツ。

1/17
前へ
/17ページ
次へ
「じゃあ行ってくるね、ナツ」 「にゃあ」 玄関の扉が閉まったあとのガチャンと締まるカギの音が嫌いだ。 さっきまでの温かくてほっこりした空気を一気に壊すから。 だけど、その音でオレは甘えん坊なペットの猫をやめる。 5年間その繰り返し。 『アキ、そろそろ見送りぐらいしなよ』 2年後輩のアキがベッドの下からのっそり現れた。 『だって眠いんだもん、ナツが玄関まで行ってくれるんだから、オレはいいよ」 ぐーっと伸びてあくびをするアキの横を通り、ひょいと出窓に飛び乗った。 『今日も大変そうだな、車動かすのって楽しいのかな』 『オレ車キライ、乗る時いつも痛いことされるし』 たしかに。 車に乗る時は病院に行く時くらいだ。 『それより遊ぼうぜ、今日はボールを2個同時に部屋の端から端まで転がすんだ』 『えー……今夜も話し聞くんだから体力回復したいよ、最近疲れるんだよね』 『あ、ナツ、負けるのがイヤなんだろ』 ……この後輩猫、そろそろ噛みついていいかな。 良くないよな、喧嘩すると怒られるのオレだし。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加