逃げ出した箱庭の鶏は強引で優しい伴侶に囲われる

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──さむい。 日中はぽかぽかと暖かかったので薄着で寝たせいか、肌寒さで意識が浮上した。目を閉じたまま手探りでブランケットを探しても見つからず、仕方なしに身を起こす。まだ深更と呼べる時間帯の部屋は真っ暗で何も見えなかった。ここは森の奥地に相応しく月明かりがとてもよく映えるが、今日の月光は心許ない。周囲が何も見えない心細さにか細く呻くと、背後から声が掛かった。 「眠れないのか」 「カイさん? ごめんなさい、起こしたかな」 「構わない。元より眠りが浅い体質でな」 この家にはベッドが一つとテーブルが一つ、椅子は二脚ある。俺たちは一つしかないベッドに身を寄せ合い眠っている。 俺も皇帝の元へ嫁入りした身だから流石にそれはどうかと思ったが、彼に「ベッドは一つしかない」と言われればそうするより他になかった。正しくは、俺が床に寝ると提案したところ却下され半ば強引にベッドに連れ込まれたのだけれど。 「もう少しこちらに……いや、俺がそちらに寄る。振り向くなよ」 「心配しなくても見えないよ。俺、夜目がほとんど利かないんだ」 日中は常に厚い布で顔を覆っているカイさんだが、流石に夜は寝苦しいようで外している。代わりに決して顔を見ないよう約束させられてしまったが、俺の瞳は夜盲症という病気らしく、暗がりではほとんどものが見えないのだ。 「見えないと言うのはいつからだ? 以前はちゃんと見えていただろう……間違えた、見えていたのではないのか?」 「ここ数ヶ月の話かな」 以前は皇帝と繋がる褥の中で彼の表情がよく見えたのを思い出す。身体を重ねるほどの距離にいるのだから当たり前のはずなのに、それが段々とどんな表情をしているのかわからなくなっていた。 しかし、それも正確にその頃であったか自信はない。初めは優しかった彼の俺を抱く行為が荒々しいものに変わっていくにつれて、俺が皇帝の表情を見つめる機会は減ったからだ。背後から突かれながら悲鳴を飲み込み、涙が溢れた視界はぼやけて虚ろになっていた。 「不便ではないのか。お前がここに来る前の環境でもきちんと説明すれば改善がされた……されたはずだ」 「かもね。うーんでもなぁ、こっちのほうが都合がよかったというか……」 むしろ、このほうがよかったかもしれない。まだ見えていた頃に見た泣く俺を見つめる皇帝の顔を思い出してそう考えてしまった。 彼が褥の中で優しかったのは最初だけで、いつからか俺を厳しく責め立てて笑うようになった。恥ずかしながらそれが嫌だったわけではないのだが、理知的な青い瞳に混じった加虐心を称える色を思い出すと思わず肩が震える。 手を伸ばせば触れられる距離にいながら、何を考えているのかわからない人だった。父や姉といい皇帝といい、俺の側には難解な心を持つ人が多い。だから俺は悪意のわかりやすい皇妃や明け透けな物言いが目立つ世話係のカイさんのことは存外嫌いではないのだ。 「困ることもあるだろう。例えば、俺が今何をしているか見えるか?」 「? 見えないよ。何してるの?」 ギ、とマットレスのスプリングが音を立てる。俺は見えないけれど気配には敏感だ。カイさんの身体が近付いたのがわかった。 「お前を見つめている。自分が見えていないと他人も見えていないと思ってしまうのだろうな、服が捲れて真白の肌が太ももまで見えているぞ」 「わあッ!」 慌てて飛び起き「もっと早く言ってよ」と文句を言えば、彼は愉快そうに笑い声を上げる。つ、と指先が服の上を這った。服越しに太ももを撫でられる。 「……ッ、カ、カイさん、俺こういうことは……」 「どれくらい肥えたか確かめるだけだ。俺のこれもただ肌の表面を撫でているだけ。そうだろう?」 そうなのか。そうだろうか。でもやっぱり許してはいけない気がして、少し強めに拒否の意を示した。しかし、俺とカイさんの間を隔てる枕を置くと「それが抵抗のつもりか?」と彼は意地悪く笑うのだ。顔を見なくても声がそう。笑ってる。 「カイさん寝ぼけてる? からかってるの?」 「全く目も思考も冴えているな。むしろ、冴えすぎて我慢が利かなくなったと言うべきか」 隔てた枕から身を乗り出す気配を感じる。ベッドは壁に寄せられていて俺は壁際だから、背後はもう逃げ場がない。せめて手を突き出して距離を取ろうとするが、その腕ごと掴んで抱き込まれてしまった。 「や、やめて……」 「優しい俺には惹かれないか?」 「……優しいから駄目なんだ」 皇帝との始まりも、初めはこうして優しく肌を撫でられるところから始まった。彼の指先はそれを思い出させる。 皇帝は初めて俺に優しくしてくれた。幸せだと感じた記憶を、それを上塗りされるのが恐ろしかった。 「お、俺、こう見えて夫がいるんだ。男なのに何言ってるんだって思うかもしれないけど、俺はその人のものなんだよ」 「ならば既婚者の証である首飾りはどうした? この国の者ならば既婚者の女は着用する場合がほとんどだ。意図して外す者は大概、姦通を疑われるからな」 「あれはここまで連れてきてもらったお代に渡してしまって……と、ともかく、俺は夫以外とこういうことはしない」 「渡した? ああ、手放したほうが都合が良いからな」 「違う!」 思わず声を張り上げる。それをうるさく感じたのか、唇に熱が当たるのを感じた。熱い口づけは容易に俺の言葉を奪い声は口内に飲み込まれていく。 一年かけて開かれた身体が少しのブランクで他人の熱を忘れるはずがなく、それだけで俺の身体は従順に快楽を追い始めた。服越しに太ももを撫でていた手が裾から中に侵入し、腹を撫でて臍の穴をグリグリと押される。 「それ……っ、やめ……ッ」 お腹の中を太いもので突かれる感覚を思い出してしまう。何かスイッチを押されたかのように容易に男の手を受け入れ始める。男の身体のくせに、後ろが疼いて仕方がない。 「脚も腹も触り心地が良くなったな。お前であればあとは何でもいいと思っていたが、やはり多少肉が付いているほうがいい」 「カイさん、やだよ、お願いやめて……」 「だがリュアン。お前の身体は従順に股を開いて俺を招き入れているぞ」 「……ッ」 明け透けな物言いに涙が出た。俺の意志に反して飼い慣らされた身体は彼を受け入れるかのような動きを見せる。 「リュアン、お前がこんなにも快楽に弱い質だとは知らなかった。もしこの場にいるのが俺でなくとも、お前はどこかでそいつを受け入れたのだろうな」 「そんなこと……っ」 ない、と本当に言い切れるか自信がなかった。けれど、俺がこんなにも弱くなってしまうのはカイさんのだからだ。カイさんが俺に優しいから。カイさんは皇帝にとてもよく似ているから。 「リュアン、俺を見ろ」 「見えないよ」 「ならば感じていろ。お前を腕に抱く男の手を忘れるな」 唇が再び重なる。今度は厚い舌が口腔に侵入してきた。それを自らの意思で受け入れながら、俺は今度こそ形ばかりの抵抗をやめた。 俺が身体の力を抜いたのがわかったのか、カイさんの手が一瞬止まる。だが、何事もなかったかのように腹の上に置かれた手が更に上へと這いずった。 「んっ……」 緊張から硬くなった乳頭を押し潰すように力を入れられて思わず声が漏れる。骨と皮ばかりのくせに妙にそこだけぽってりと厚みがあるのは、皇帝に散々嬲られた名残だ。胸全体も少しだけ肉付きがよくなっているが、仰向けに寝ているせいでほとんど平らだった。だが、その平坦な道のようにフラットなものの何が楽しいのか、カイさんは繰り返し何度も撫でる。神経が集中している先端付近を念入りに撫で回し、突起を抓られると思わず悲鳴が出た。 「ここが好きか?」 「ち、ちがう……ッ」 「ならば痛いのが好きなのだな。お前の身体はわかりやすくていい」 太ももをこじ開けられ、そこに手を滑らせる。中心は兆しを見せていた。見せつけられるのが恥ずかしくて閉じようともがくが、彼が少し力を入れただけでも俺の精一杯は敵わない。それでも抵抗をやめないでいると、そのうち煩わしく思ったのか身体ごと転がされた。仰向けからうつ伏せにされ慌てて脚を閉じる。 「そのままでいろ。今日は準備がないから最後までしない」 「なに……ひゃっ」 いつの間に準備していたのか、太ももの間に何かぬめり気のあるものが垂らされる。匂いからしてオリーブか、何か食用油の匂いだろう。そのままぬちぬちと音を立てて塗り広げられた。腰に手を回し引っ張り上げられ、尻を突き出した獣のような体勢でシーツに顔を押し付ける。 「ふ、腰が揺れているぞ」 「言わ、ないで……っ」 楽しげな笑い声が背後から聞こえて、その直後太ももに熱いものが押し当てられた。見えないのに、これが何か知っている。 無意識に開いた太ももを咎めるように臀部を抓られると肩が跳ねた。隙間だらけの太ももの間にカイさんの性器が挟み込まれ、ぬちゅぷちゅと音を立てて侵入する。性器の下を擦り睾丸を揺らして竿まで一気に太い幹のような男性器で擦り上げられると、それだけで視界が揺れるほどの快感に息が詰まった。俺の臀部とカイさんの腰が密着し、ざりざりとした下生えの感覚すら気持ちがいい。 皮膚が捲れ上がって女性器のような縦割れをした後孔がきゅんきゅんと疼きを訴えてくる。指がほしくて無自覚のまま手を伸ばしたが、手首を掴んで制止される。そのまま腕を引っ張られ手綱のようにされると身体の自由が利かなくなった。うつ伏せのまま胸が締め付けられて息が苦しくなる。 「一人のときもここをいじるのか?」 「わかん、な……一人で、したことない……っ」 俺が苦しげに声を出すとカイさんは嬉しそうに笑った。見えないけど、そんな気配がするのだ。 「閉じていろ、力は入れなくていい。そうだ……にしても緩いな」 「ご、ごめんなさい……?、ひゃあッ!」 カイさんのそれに性器を刺激され俺は気持ちがいいけれど、カイさんはほとんど快楽が拾えないのだろう。締め付けのないそこがよほど期待外れだったのか、太ももよりはいくらか肉付きのよい尻臀に油でぬるぬるの性器が滑るのがわかった。力を入れろと言われて、入れ方もよくわからないまま言われるがまま従う。ず、ずちゅ、と鈍い音と共に双丘とその奥に熱いものが擦り付けられた。 「なんだ、随分と期待していたのだな」 「ちが、」 「違わないだろう。こんなにもヒクつかせて」 彼の言う通りヒクヒクと肉を動かし期待して媚びていたそこを見咎められる。突き立てられた油をまとう指を容易に飲み込んだ。 「ひぅ、は、あ、ああっ……ん……ッ」 「まるで肉壺だな。そんなに嬉しいか?」 「う、うううう……っ」 自分の顔に熱が集まるのがわかる。頭が熱に溶かされたようにぼうっとする。おかしい。カイさんは優しいはずなのに、こんな風に責め立てられるとまるで皇帝に抱かれている錯覚に陥った。 身体だけでなく心まで皇帝を裏切る自分が信じられないのに、この手を離したくないと思ってしまう。快楽を追う身体に比例して緩んだ理性が自分に都合の良いほうへと言葉を囁いてくる。捨てられたのだから姦通ではないのだと、飼い主のことなど忘れてしまえと。 「ひ、ひぅ……ッ、あ、あ……ああ゛っ……」 すんなり指を受け入れたそこが手荒く慣らされる。ぷちゅっと先端だけ熟れた肉の中に埋められると快感で声が漏れた。 「おい、まさか今ので達したのか?」 「へ…………え……?」 言われて慌てて自分の性器に触れると濡れている。恥ずかしい。太もも同士をすり合わせ隠そうにも、わざとそこに身を滑らせた男の身体が邪魔をして閉じることも許されない。 ぱたぱたと飛び散る精液の先が俺には見えないが、カイさんには太ももを濡らす白い体液が見えているのだろう。まだ人肌に温かいそれを塗り込むように身体に擦り付けられた。興奮を鎮めようとしているのか、深い呼吸が聞こえる。 「……はー……全くお前は……おい、こちらに顔を向けろ」 「え? んぶっ」 太ももも尻も準備の不十分な後孔も達するには不十分だと判断したのか、仰向けになった俺の顔を跨ぐ形でカイさんの下半身が乗る。体重は掛けられていないので苦しくはない。目では見えないながら腰を突き出された体勢で目前に何があるのかわかる。彼はそれが何かわからせるようにゆっくりと時間をかけ、目の前で反応しきった男性器を揺らした。 ひたひたと揺らしたそれの先端が唇と引っ付く。そのまま口腔は侵されず、焦らすように額や頬に押しつけられ、たっぷり時間をかけて顔を分断するように置かれた。その熱さと濃いにおいで思考が鈍る。 「あう、待っ……せめて座って、俺が」 「待てない」 「んぐッ……!」 彼は短くそう言うと、亀頭を口腔に押し入れて腰を進めた。途端気道を塞がれ、喉奥に太く長いものを押し込められる苦しさに襲われる。抵抗しようにももがく腕を押さえつけられ拒絶が許されない。もがくうちに、無意識にカイさんの手を引っ掻いてしまった。 「ひっ、んんーーーッ! んぶ、ゔえ……ッ」 ぎゅうぎゅうに狭まる喉が気持ちよいのか、深く挿入され一定の間隔で腰を引く。じゅぽじゅぽと音を鳴らし抽挿を繰り返しされる。 「気を失うなよ、俺が出すまで待て」 「んお゛ッ、お゛……ッ、ごっ……お゛えぇ……ッ」 喉の奥に男性器を突き立てられ、自分の身体が強張るのがわかった。徐々に早くなるペースは確実に彼を絶頂に導いていると感じるものの、その終わりが見えないままでは息苦しさが紛れない。 気道を確保しようと抗い侵入を拒む喉を制裁するかのように、掘削する腰の動きがより力強いものに変わる。ごりゅごりゅと音がしそうなほど無理やり押し広げて口の中に進む性器が最奥で動きを止めた。 「んぶッんんんんーーーッ!」 ドピュドピュと喉奥を孕まさんばかりの濃い射精をされて呼吸が止まる。 「ゔ、ゲホッ、お゛えぇ゛ッ」 「口を離すな、そのままだ。飲め」 離すなと言われても、彼に腰を引いてもらわなければ呼吸もままならない。喉奥にとどまる精液の味が唾液と共に舌に溢れ、においが鼻の奥から上がってくる、まるで自分が何かそういうものを捨てる容器にでもなった気分だった。気持ち悪い。でも、飲まないと。言われるがまま、喉に張り付く粘度の高い体液を飲み下す。 「はは、リュアンお前、これでも感じるのか。筋金入りだな」 「ふぐッんんーーっ!!」 飲み込む喉の動きが気に入ったのか射精の終わらないそれを一際深く挿入され、同時に気づかぬ間に立ち上がった自分の性器を握り込まれて二度目の射精をする。喉奥の射精を終えた性器が口から引き抜かれる頃には、俺の顔はすっかり涙と涎と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。 ずるると引き抜かれやっと呼吸が楽になった。 酸欠からか遠退く意識の中で、そういえばシーツ洗濯したばかりだったのになぁ、とどうでもいいことを思うのだった。
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