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キレイな顔
「よし、これでホームルームは終わりだ。
おい、瀬尾!ちょっと残っていけ!」
「………はい……」
きっとまた係の仕事だ。
僕は黒板係だけど、他の係よりも仕事が少ないためか、実際のところは先生の雑用係だ。
「先生、今日は何の仕事を……」
「明日の授業で使う資料を、1人分ずつに分けておいて欲しいんだ。ここにコピーしたのを置いておくから。1人8枚で、6クラス分。
悪いけど、頼んだよ。」
「はい……」
最悪だ。何でこんなブラック係を引き受けてしまったんだろう。小さく溜め息を吐く。
「あの…俺、手伝うよ」
背後から、聞き間違えかと思うほど
か細い声がする。
髪がボサボサで、顔の大きさの割に
大きなメガネをつけている。
僕も人のことを言えたような声量ではないが、それにしても小さい。
「あ、あぁ……ありがとう。えっと……」
見たことはあるんだ。でも誰だっけ。
そうだ、たしか同じクラスだ。
休み時間に1人で絵を描いていたような…
「えっ、あぁ、細田です。」
「あ、えと…僕は瀬尾…です」
「うん、知ってる。」
「そ、そうだよね。同じクラスだもんね。」
ぎこちない自己紹介を終えて、
プリントの山たちを前に作業を始める。
「細田くん、はさ、絵、描いてるよね?」
「あ、うん……それくらいしか、やることなくって。」
「そうだよね……」
少しの沈黙が流れる。
「瀬尾…くんはさ、陽キャ嫌い?」
「えっ……いや…嫌いっていうか…
別に嫌い…ってことはないけど、なんか、
劣等感?を勝手に抱いちゃう。」
へへ…と特に意味のない笑いを付け加える。
「そうだよね……なんか、前、早坂くんに話しかけられて怖がってるの見かけたから。」
「あぁ、早坂…ね。アイツは、イケメンだろ?ちょっと苦手で。顔がキレイな人。」
「そう、なんだ…?」
「あ、いや、妬みとかではなくて。ちょっと
トラウマ、みたいなのを引きずってて。」
「そっ…、か。中学?」
「………うん。」
細田くんはそれから何も聞いてこなかった。
顔がキレイな人がトラウマだなんて、
重かったかしら、と後悔するも、
新しい話題を振る勇気はない。
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