封印した記憶

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封印した記憶

「なんで僕がお嫁さんなの!キョウちゃん!」 両腕いっぱいにコスモスを抱えて、僕を見上げているのは同じ保育園のシオリくん。 「だって、シオリはかわいいから。」 家が隣で、いつも一緒に遊ぶシオリは、どこからどう見ても女の子にしか見えない。 真っ黒な髪はくるくるの巻き毛で、 くりくりした瞳で、色白な肌。 シオリは天使なんだと割と本気で思う。 こんなキレイな子、誰にもあげないんだ。 そう思って、 「キョウちゃんとシオリは大きくなったらケッコンするの!」と、常日頃から言っている。 そうするとその度に、 「キョウちゃん、僕とケッコンしたら、どっちがお嫁さんやるの?」とシオリが聞く。 「シオリに決まってるだろ。」 僕は決まってそう答えるから、 冒頭のような会話を何度もしている。 僕はシオリが大好きだった。 何よりもキレイな、シオリだけが大好きだった。 なのに、小学校に上がる直前の2月の終わりに、シオリは遠くへ引っ越して行ってしまった。
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