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「昨日、遠野由紀さんが亡くなりました」
担任教員が朝、開口一番に告げたその言葉は、それまで絶え間なく会話が飛び交っていたクラスを凍らせるには十分すぎる言葉だった。
隣の席のクラスメイトと話していた男子生徒も、
まだ授業の準備ができておらず教科書を取り出していた女子生徒も、
最初からやる気もなく机に突っ伏していた男子生徒も全員、固まった。
クラスメイトの誰もが硬直し、教員を凝視する。
まるで時が止まったかのように活気ある教室が一変した。
教員のその言葉の意味がわからず。
思考が追いつかず。
いや、
クラスメイトのほとんどはすぐにその言葉の裏にある事実に思考を巡らせていた。
ゆえにその答えはすぐに出た。
自殺だ。
その中のひとり、関根彩佳の思考はさらにその先へ続いていた。
「うそ…」
彩佳の口から意図せず言葉が漏れた。
そしてその結果導き出された結論に、彩佳はまるで心臓が止まったかのような感覚に襲われていた。
血の巡りが止まり、身体が内から冷え始めた。
まるで頭から足の先までの毛細血管すべてに冷水を流し込まれたように冷たくなるのを感じる。
それは数秒、数分、何時間にも思えた。
彩佳は震える自分の手を見やる。
由紀が死んだ。
由紀が自殺した。
ーーちがう。
ーー私が、由紀を殺した。
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