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「可愛い……!」
キラキラした眼差しでトモちんがトリュフの箱を覗き込む。
小窓の下のトリュフは、姫が飾ったピンクのラインとアラザンがついたのが一つ、俺の飾ったホワイトのラインにアーモンドダイスを散らしたのが一つ、そして最後の一つは朔夜先輩が仕上げたココアパウダーのシンプルなトリュフだ。三種三様のトリュフに、テンションをあげたらしいトモちんは、より自分の近くへと箱を引き寄せた。
「デコも凝っててすっごい可愛い! お店で売ってるやつみたい!」
「委員長がさ、飾ると可愛くなるからって色々教えてくれて。月冴知ってる? チョコペンって絞ると出てくるやつ売ってるのな……あれでこうやって引くと描けるの」
「チョコペン!? そんなのあるんだね~!」
姫がジェスチャーを交えながらトリュフ装飾の過程をトモちんに話すと、トモちんは一層テンションをあげて頷きながら満面の笑みを浮かべ、お餅みたいに白いほっぺたをほんのり赤く染めた。
(トモちん、チョコペンくらい知ってるよね……こうやって姫が話してくれるのがよっぽど嬉しいんだ?)
昭彦の話を聞いたあとだからよけいにそう思う。
きっと、話の内容じゃなくて、姫が自発的に話してくれることそのものが嬉しいんだよな。ただ盲目的に好きなのかと思ったけど、そうじゃないんだってのが伺い知れる。
(アッキーが「ふたりが付き合って良かった」って言うのも、なーんか納得できるかも)
仲睦まじそうに話を続けるふたりを見ながら、そんな風に思った。
「これはリトライ成功……かな」
ぽつり──自然とそんな言葉がこぼれた。
「ん? 黎斗、いまなんか言った?」
コーヒーのおかわりをもらってきたのか、昭彦がテーブルにコーヒーカップをつけると同時に尋ねてくる。
「いーや? なんも」
へらっと笑って、テーブルの上の小皿から自分用に取り分けておいたトリュフをひとつ、指先でつまんで口に含む。
舌の上でゆるやかに蕩けて広がるチョコレートは、幸せの味がした──。
【RETRY!ーリトライ!ー_完】
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